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八月十九日 弐【一方通行編】

「ハハハハハハハハハハハハハハ!!逃げるだけじゃ何にもなんねえぞコラ」

帝督は2枚の翼を羽ばたかせながら笑う。
帝督の手の動きに従って研究所内の壁や天井を駆け抜ける御坂を追う様に爆発が生じる。

「ッ!キャッ!!」

逃げ切れずに、御坂は天井で爆風を背後から受けてそのまま床に落ちそうになる。
帝督はそれを見ると追撃の羽を放つつもりで翼を広げた。
しかし御坂が右手を己の方に伸ばしているのを見て、帝督は慌てて6枚の翼を防御に回す。

瞬間、轟音と共に超電磁砲(レールガン)が帝督に炸裂する。

落下しながらの体勢で御坂が放ったのだ。
御坂はそのまま磁力を使い、床にゆっくりと降り立った。

「直撃なら流石に喰らうでしょ」

衝撃で粉塵が巻き起こり、相手の姿が見えないが、御坂の最強の一撃だ。
効かない筈がない。
だけど、と御坂は先ほどの事もあり、いつでも動けるように体勢を低くして相手の動きに備える。

「危ねえ。危ねえ。俺の翼をぶち抜いて掠めやがるとは」

粉塵が晴れると共に出て来た帝督は真白の翼を羽ばたかせ再度姿を見せる。
その服は脇腹の部分が破け、僅かに血が出ていた。
しかし、御坂の全力の一撃が直撃したと言うのに。
傷はそれだけだった。

(翼を使って軌道をずらされたッ!?)

帝督は御坂の驚愕を嘲笑うように口角を歪める。
そして翼を勢い良く羽ばたかせた。

「くっ!!ああああああああ!!」

轟!! という風が御坂を襲う。
御坂はそれを足を磁力で留めることでどうにか耐える。
しかし、あまりの烈風に御坂は目を閉じてしまう。
それがまずかった。

「がっあ…」

腹に帝督の拳がめり込んでいた。
烈風を放つと同時に帝督は御坂の懐に一気に潜り込んだのだ。

「く…っそ…」

どさり、と御坂が倒れる。
ポケットからこぼれ落ちたのか、複数のコインが金属音を響かせながら床に散らばった。
帝督は御坂の首に翼を押し付ける。

「これで終わりか」

帝督の声が低く響いた。
とある科学の事件体質(トラブルメーカー)第51話









「唯鷹さん…」

背後に『空間移動』して現れた相手に白井は口を開く。
口を開き、肩に担ぐ少女を見て、白井は説明されるでもなく綾峰が今まで行ってきた事を知った。
そして自分が今いる部屋の意味も知った。
目の前にいる男がこれだけの少女達を救って来たのだと、察した。

「……………………」

だから一瞬の間、何も言えなかった。

「……………………」

少女を背負った相手は音もなく、白井の横を通りすぎると背負っていた少女を床に下ろす。
そして、カエル顔の医者に一言だけ言った。

「コノ子ヲ頼ム」

しかし言わねばならない。
言わねば、この人は止まらないのだから。

「唯鷹さん!」

張り裂けるような声で白井は叫ぶ。
追い縋るように相手のカッパの端を掴み、引き止めようとする。
瞬間、ばふっという音と共にカッパが砂の様に崩れた。
砂の様に崩れた後、そこに綾峰の姿はなかった。

「え?」

突然の事に驚きを隠せない白井にカエル顔の医者は言う。

「どうやら、向こうでも何かあったようだね?」










「これで終わりか」

帝督の声が低く響く。
処刑人の様に御坂の首筋に羽を当て、振り下ろそうとした。
瞬間、

断っ!! と雷が落ちたかのような電撃が先ほどまで帝督の目前を満たした。

「ごっがっァァああああ!?」

電気抵抗の高い空間をものともせず、一撃を放ったのだ。
レベル5の『発電能力者』だからこそできる芸当だった。
帝督は電撃にダメージを負いつつもどうにか後退する。

「ちっ」

この一撃で倒すつもりだった御坂は思ったよりも帝督にダメージが入ってない事に舌打ちする。
帝督の翼が間に入ったことで若干威力が弱まったのだ。

「ったく。メンドクセェ。さくっと翼でも突き刺して動けなくしとくべきだったか?」

口の端を苦しそうに歪めている帝督の言葉を聞きながら御坂は立ち上がる。
しかし立ち上がったものの、先ほどの攻撃は効いているのか腹部に左手を当てながら顔をしかめている。

「レベル5舐めんじゃないわよ」

「そういやそうだったな」

お互いに相手を威殺すような笑みを浮かべる。
瞬間、帝督は翼を勢いよく羽ばたかせるために、翼を一気に後ろに反らした。
それを見て御坂はコインを出す暇はないと判断すると、右手に力を込める。

翼によって圧縮された空気の砲弾と、
御坂の最大威力の電撃の槍が、ぶつかった。

2つの性質の違う強大なエネルギーがぶつかると同時に、
その中心を青白い光線が貫いた。

「なっ!?」

「きゃぁ!!」

突然の横殴りによって研究所内を凄まじいエネルギーが駆け巡った。
その余波によって御坂は後ろに吹き飛び、意識を失った。

「オイオイ、舐めたまねしてくれんじゃねぇか。何様のつもりだよ」

同じく衝撃を受けつつも、それをどうにか翼で凌いだ帝督が忌々しげに呟く。
その視線は既に御坂には向いていない。
帝督の視線の先、研究所の壁に開いた穴の向こう側、そこには誰もいなかった。
だが、この技を使える人物など、帝督の知る中には1人しかいない。

「なぁ、『原子崩し(メルトダウナー)』!!」

帝督の声に応える様にくすくすと笑う声がどこからか聞こえてくる。
その笑い声に帝督は苛つきながら音源を探す。
すると、研究所の一画に先ほどまではなかった布の人形が置かれていた。
どうやらこの人形の中に音源が入っているらしい。
人形を八つ裂きにしようと翼を広げた帝督の目の前の人形から声が聞こえてきた。

「…別にアンタの邪魔をするつもりじゃなかったんだけどねぇ。ちょこっと色々小耳に挟ませてもらったから。第三位に用ができて、ね」

もう1人のレベル5、麦野沈利の声だけが人形から聞こえてくる。
どうやら離れた場所から機械を使って声を伝えて来ているらしい。
あるいはコレ自体が囮か。
どちらにせよ、と帝督は第四位を鼻で笑う。

「はっ。相変わらず小物くせぇヤツだな。んで?テメェは何のつもりだ?人様の仕事の邪魔をしてくれやがって。テメェの命で落とし前付けるか?あぁ?」

「ふふ、怖いわねぇ。あんたそんなんだから、チンピラって言われんのよ。とりあえずさ、私達がこの子借りてくから。必要なら後で返すわよ?どうする?」

嘲笑うように言う麦野の声にいらつきを感じながら帝督は先ほどまで御坂がいたあたりを見て、そこには既に誰もいない事に気がついた。
既に部下か他の能力者が回収したのだろう。
手の早いことだ、と帝督は呟きながら首をふった。

「ちっ。好きにしろ。メンドクセェ」

どうせ依頼に抹殺は含まれていないのだ。
他の暗部に連れ去られた御坂の安否を気にする程帝督はお人好しではない。

「ただ───」

帝督は先ほどよりも凶悪な笑みを浮かべ、低い声でドスを効かせながら言った。

「次はねぇぞ」

「───ッ!!」

息を呑む声が聞こえてくる様子から、帝督は囁かな反撃が効果をあげたのを感じて若干いらつきが和らいだ。
そして回りを見渡して倒れている『スクール』のメンバーを見つけると、ため息を吐きながら言った。

「さて、帰るか」









帝督のいる場所から少し離れた路上にキャンピングカーが停められていた。

「───ッ!!」

息を呑んだ麦野は受話器を電話に叩き付けた。
それを見ながらフレンダは言った。

「まぁまぁ、結局アイツがどんだけ吠えても私らに手は出せないって訳よ」

「きぬはたが来たよ」

滝壺の言葉に麦野は窓からキャンピングカーの外を見た。
そこにはパーカー姿の絹旗が茶髪の少女を背負っていた。

「やっぱ第二位の周りに盗聴器を仕込んどいて良かったわ」

前回の月夜の遭遇の後、『スクール』の動向を探るために『アイテム』の下部組織に命令しておいたのだ。
『『スクール』の下部組織に盗聴器を仕掛けておきなさい』、と。
本来は帝督が『多重能力者』と互いに潰し合った後を狙うつもりだったが、先ほどの帝督と御坂の会話から『多重能力者』の能力の秘密、そして今行われているレベル6シフトのことを知り、御坂の持つ情報を使えば『多重能力者』に会える可能性は高いと踏んだのだ。

「それに、第二位より第三位の方がやり易そうだし」

「まぁ、確かに『未元物質(ダークマター)』よりは『超電磁砲(レールガン)』の方が相手すんのは楽そうだからね」

「ええ、あの常盤台の超電磁砲を直接潰せなかったのは残念だけど…。第二位の相手するよりは…マシ…よ?」

フレンダとも滝壺とも違う声に反応した麦野は気がついた。
いつの間にか、もう1人乗っていた。

「うん?どうした?」

そのもう1人は麦野の反応こそおかしいと言う様に首を傾げる。
そこには紅い長髪で長身の男がキャンピングカーの中に窮屈そうに座っていた
目の下にはバーコードが入れ墨されている。
さも当然のように乗っている男に3人は、一瞬違和感を覚えた。

(あれ?こいつ誰だっけ?)

麦野がそんな事を考えている横でフレンダが首を傾げている。
今までいなかったのに、いつもそこにいたかのような違和感。
首を傾げる3人を面白そうに見る男に嫌悪感はない。
むしろ、仲間内で笑われていることに恥ずかしさすら感じる。
そこで麦野はふと違和感に気がつく。

(なんで、こいつが敵って考えないの?)

まるでこの男が当然味方であるかのように考えている自分の感情に愕然とする。
そしてこの感覚を前にも味わった事を思い出す。

「『心理定規(メジャーハート)』!?」

「あれ、知ってたのか?」

瞬間、かちりと調整されていた感情が消える様に警戒心や敵意と言った敵に対する感情が漏れだして来た。
ニヤリと笑いながら男は消えて、

「なっ!?またあなたですか!?」

外で絹旗が騒いでいる声が聞こえて来た。
慌てて外を見ると、尻餅をついている絹旗の横に黒いカッパを着た男の後ろ姿があった。

「『多重能力者(デュアルスキル)』!!」

誰の言葉だったか、誰かが叫んだその言葉に男は黒い仮面で麦野達の方を向くと、

「ヨウ、コイツハ返シテモラウゾ?」

当然のように御坂を担ぎながら言った。
瞬間、キャンピングカーの外に出ていた麦野は『原子崩し(メルトダウナー)』の青白い電子の光線を放つ。
それを軽々と『空間移動(テレポート)』で避ける多重能力者に麦野は舌打ちする。

「何?あんたその子を助けて白馬の王子様って訳?」

「べっつにィ。なンかレベル5同士がぶつかってるのを感じたからさァ。見に来たらこんな事になっててよォ。ちょィと、助けてやろうかと思ってなァ」

キャンピングカーの上に移動していた多重能力者は先ほどの男とは違い、白い髪の少年の姿をしていた。
そして次の瞬間には、再度の『原子崩し(メルトダウナー)』を避けて麦野達から少し離れた場所に移動した。

「あぁ?」

麦野はそれを見て苛立たしげに声を荒げた。
麦野達の前にいるのは、麦野だった。
正確には麦野の姿をした多重能力者だった。

「あら、どうしたの?この姿は気に入らなかったかしら?」

ご丁寧に麦野の口調や声色まで真似ているその人物は麦野に優しげな笑みを浮かべて言う。
その安い挑発が麦野をいらつかせる。

「滝壺、フレンダ、絹旗。準備しなさい。こいつ潰すわよ」

キャンピングカーから出て来た2人は立ち上がった絹旗と共に麦野の背後に立つ。
それを見て多重能力者は笑うと更に挑発を重ねる。

「ふふ、怖いわねぇ。あんたそんなんだから彼氏の1人も出来ないのよ。まぁ、できたらできたで将来ヤンデレになりそうで怖いけど」

「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

ついに麦野がぶちキレた。






「落ち着いたらどうだい?」

カエル顔の医者の言葉に駆け出しかけた白井が止まる。

「探しださなきゃ……あの人は止まりませんの。いつもそうですの。誰かが止めなきゃ良い意味でも悪い意味でも自分の信じた道しか進まない。それがあの人ですの」

白井の脳裏に思い出されるのは、出逢った日の事、そしてこれまでの日々の事。

「とは言ってもねぇ、君が彼を見つけるにはここにいるのが一番だと思うけど?」

「分かっていますの……それでも…」

「まぁまぁ、そもそも探し出すと言っても君は探し出せなくてここに来たんだろう?」

「…………ですが…」

カエル顔の医者の言葉に白井は言葉が出なかった。

「それにだよ、ここで待って確実に彼に会った時に彼を止める言葉を考えた方がより効率的じゃないかな?」

確かに、普段の白井ならばカエル顔の医者の言う通り、ここで留まる事を判断していたはずだ、留まり何が最良なのかを考えてそれを実行するべきタイミングを待つ。
今までならきっとそうしてきたに違いない。


そうして、今までの白井は御坂にも綾峰にも置いて行かれたのだ。


だから、今の白井は…。
白井はカエル顔の医者の顔を見ると言った。

「それでも、私は行きますわ」

白井は駆け出すと、そのまま『空間移動(テレポート)』で外へ出て行った。

「どうしたもんんかねぇ?」

カエル顔の医者の呟きが誰も応える事のない部屋に消えた。











臨戦態勢をしていた麦野は多重能力者に警戒しながら懐に手を入れた。

「滝壺、今度こそ結果出しなさいよ」

麦野は懐から丸いケースを取り出すと、滝壺に投げつける。
ケースは空中を舞うと、滝壺の手に落ちる前に多重能力者が掴んでいた。

「「なっ!?」」

「女の子は健康一番だにゃー」

金髪の青いサングラスをした男はそう言うと、手に持っていたケースを即座に『発火能力』によって燃やした。

「でもって、アンタは眠ってなさい!」

第三位の姿になった多重能力者による電撃が滝壺に走る。

「ひゃん!?」

電撃によって沈められた滝壺の横で即座に反応したのは絹旗だった。
それを、多重能力者は、

「この程度で私に勝てるとお思いですの?」

豪奢な扇子を持った長髪の少女の姿で絹旗に触れると、『空力使い(エアロハンド)』で絹旗を吹き飛ばす。

「このやろおおおおおおおおお!!」

麦野が『原子崩し(メルトダウナー)』を放つが、それをまたも『空間移動(テレポート)』によって避けた多重能力者は次々に倒れる仲間に立ち往生するフレンダの背後に現れると、電撃によって気絶させる。

「最後はあなただけですが?」

凛とした表情のポニーテールの女剣士になった多重能力者が麦野を見る。

「なんで、あんたなんかに…」

「?」

「なんで、あんたみたいなレベル6どころかレベル5にすら到達しなかったヤツに私たちがやられなきゃいけないのよおおおおお!!」

「ぷっ。きゃはははははははははははは」

麦野の叫びに多重能力者はきょとんとした顔になると、笑い出した。

「何がおかしい!!?」

いらつく麦野に多重能力者は元の姿になると言った。


「俺ガレベル6ノ能力ヲ使エナイッテ?」


多重能力者の言葉に麦野の表情が凍り付いた。

「…………?」

「確カニ、俺ハレベル6ニ到達スル事ハデキナカッタ。ダガ、使エナイワケジャナイ」

「あ、あり得ない」

「ナラ『神ナラヌ身デ天上ノ意志ニ辿リ着クモノ(レベル6)』。ソコニ最モ近ヅイタ者ノ力ヲソノ身デ体感シテミロ、レベル5」

多重能力者の言葉と共に、麦野の世界が塗り替えられた。

「………………」

しかし目に見える変化は何も起きなかった。
一瞬だけひるんだ麦野は何も起きていないのを確認すると、

「何よ、ハッタリってわけ?」

嘲笑いながら多重能力者を見る。

「ソウデモナイサ。『倒レ伏セ!麦野沈利!』」

「がっ!?」

瞬間、麦野は見えない力に押さえつけられるように地面に叩き付けられた。
麦野はすぐに立ち上がろうとするが、立ち上がる事ができない。
何か巨大な力に押さえつけられている、というよりも、そういう風に動く方法がわからない、と言った感じだった。

「な、に、これ?」

「レベル6、ツマリ神ニ最モ近ヅイタ力ッテノハアラユル現象ヲ制御デキル力デモアル」

「はっ?」

意味がわからないと言う様に麦野は動きを封じられた身体で多重能力者の方をどうにか見る。
そこに立つのは、先ほどと変わらない多重能力者。

「マァ、俺モ最近ニナッテ思イ出シタンダガナ…。ットソンナコトハドウデモイイナ」

しかし、その黒いカッパは死装束に見えて、顔を隠した黒い仮面は、死神のそれに見えて、

「重要ナノハ、今コノ時テメェノ生死ヲ司ルノハ悪魔デモ死神デモナク、俺ダッテコトダ」

麦野は今度こそ恐怖に陥れられた。








「超何ですかあれ?」

ロケットの様に吹き飛ばされた絹旗が数分もしない内に戦場に戻ってくると、そこには1つの黒い箱があった。
それは箱と言うよりも、少し広めのロッカーという方が適切だろう。
立った状態の人が4人程までなら詰め込める様な大きさの黒い箱。
横には、先ほど絹旗が攫って来た御坂やフレンダ、そして滝壺がその箱の横で倒れていた。
多重能力者と麦野の姿はない。

「と、いう事はこの箱が超怪しいですよね」

絹旗が恐る恐る箱に近づいてみるが何も起きない。
初めて機械を見た秘境の原住民の様な動きで箱を小突いてみるが、変化はない。
反応のない箱に絹旗はため息を吐きながら呟く。

「なんだ、本当に超ただの箱ってわけ…」

瞬間、箱が風船のように破裂した。

「わひゃう!?」

妙な声を上げた絹旗の目の前で、どさりと何かが倒れる。
それは、どこかで見たことのある茶色いもので。
茶色い髪の先には見知った人間の顔があった。

「な!?麦野!?」

慌てて近寄ると、

「サテ、後始末ハソチラニ任セテモ良イカナ?」

麦野の横に多重能力者が現れた。

「!?」

瞬間的に戦闘態勢を取る絹旗に多重能力者は構う素振りも見せずに御坂を担ぎ上げた。

「麦野に何をしたんですか!?」

「眠ラセタダケダ。後始末ハソチラニ任セル。アア、後。ソチラノリーダーガ目ヲ覚マシタラ伝エテオイテクレ」

「コレニ懲リタラ今後一切、俺ニ関ワロウトスルノハヤメル事ダ、ト」

「……………」

「オマエモ、レベル5ヲ無傷デ倒ス様ナヤツヲ相手ニシタクハナイダロウ?」

それだけ言うと、多重能力者は消えた。
残されたのは多重能力者のいた場所を呆然と見つめる絹旗と倒れた『アイテム』の3人だけだった。









『アイテム』からどうにか逃げ仰せた綾峰は御坂を背中に担ぎながら第七学区を歩いていた。
顔面は蒼白で、息は荒れており、10人が見て10人が重病人で納得してしまいそうな状態だった。
その原因は正に先ほどの能力の使用に他ならない。
数秒の間とは言え、レベル6(絶対能力)に近い力を使ったのだ。
唯でさえ、『一方通行(アクセラレータ)』との戦闘で疲労している綾峰の体力は大幅に削られてしまった。
だが、第四位とは言えレベル5である麦野沈利から御坂と言う荷物がある状態で逃げ仰せるにはあれしかなかったのだ。

「メンドクセー」

呟く綾峰はふらつきながらも、どうにか足を進めていた。

「…………なによ」

突然聞こえた背後からの声に綾峰は一瞬きょとんとすると、ぶっきらぼうに言った。

「何だ、起きてるなら下りて自分で歩いてくれると助かるんだが」

「圧倒的じゃない…」

背中にぎゅっとしがみつく御坂に綾峰は黙る。

「あの女、私と同じレベル5なんでしょ?」

「……」

「しかも、周りにいたのは学園都市の暗部って所にいるヤツらなんでしょ?」

「……」

「なのにほんの数分、しかも無傷で倒しちゃうなんて…本当、強者ってやつよね…」

「……」

ぎゅぅっとより強い力で綾峰の背中を御坂は握りしめた。
歯を食いしばり、目に涙を溜めて。

「それが多重能力者の力なんでしょ?」

「……」

「そんなすごい力を持ってるのに…」

「……」

「そこまで圧倒的な力を持ってるのに…」

「……」

「何で、何であの娘達を助けてくれないのよ!!」

「……」

「レベル6ってのがそんなに大事なの!?」

「……」

「なんでそんなものの為にあの娘達が食いものにされなきゃいけないのよぉ!!」

これが御坂の限界だった。
後は、堰を切ったように言葉が溢れ出した。

「助けられたんでしょ!?」

「救えたんでしょ!?」

「守れたんでしょ!?」

「私を助けてくれたみたいに!黒子を救ってくれたみたいに!!あの娘達を守ってよぉぉぉおおお!!!」

「……」

「助けてよ……ねぇ、助けてよぉ、私には…もう…救えないのよ…」

綾峰は背中が濡れていくのを感じながら、言葉を返した。

「……俺は───」








「あれは…お姉さま!?」

病院を出てから走り回っていた白井は偶然から御坂を見つけることができた。
本来学校側から指定されている普段の制服姿ではなく、私服姿だった。
しかもふらついているその姿は遠くから見ても分かるくらいに体調が悪いのは明白だった。

「お姉さま!」

白井は慌てて『空間移動(テレポート)』で近づくとよろけた御坂を支える様に肩を持った。

「……黒子…」

そして普段の明るい口調ではなく、本当に疲れているその声に白井は不安に胸がざわめきたった。
次の瞬間、御坂は肩を支えている白井を強引に振りほどくと、白井に向き直った。

「おねえ……さ…ま?」

「ねぇ、黒子…」

「な、なんでしょうか、お姉さま?」

俯いている御坂の表情は読み取れない。

「アンタは、私と綾峰さん、どっちの味方?」

白井は絶句した。
それを見る御坂の表情は暗い。
どこまでも暗い。
感情も目の光も無くしてしまったかのように、暗かった。
何も言えずにいる白井に御坂は言葉を続けた。

「別に今すぐ、答えを出さなくても良いわ。でもいずれ、必ず決めなさい」

御坂はそれだけ言うと、私は先に帰るわ、と言って去っていった。








「……俺はヒーローじゃないんだ、御坂」

それが御坂の問いかけに対する綾峰の言葉だった。








あとがき。
長い間お待たせしました、皆々様。
綾峰を敵だと認識したままの御坂。
綾峰に会えないどころか、過酷な選択を迫られた白井。
最早色んな意味でぼろぼろの綾峰。
上条さ~ん!早く~!!(笑)

きっと、上条ならどうにかしてくれるはずw(おい

後、最近ついに綾峰が俺Tueeeeeeeeeeee!!状態に…。
この作品投稿初期から恐れていた事態が…。
てかそのうちパワーインフレ起こすんじゃ…、と作者は戦々恐々としてたりします。
さて、いくつか設定面での質問が来ていたので、今回は自ら答えたいと思います。


arc様より
「本文で物質を生み出す云々とか書いてるけど未元物質で絶縁体を作るのは無理。
 垣根さんの能力でできるのは”違う世界”からこの世界では未だに観測されてない物質を引き出す
 それだけの能力であって、別に帝督自身が好き放題に物質を作れるわけではねーです。」

回答
えっと、質問に答える前に訂正を。
「垣根さんの能力でできるのは”違う世界”からこの世界では『未だに観測されてない物質』を引き出す」
と言う事ですが、実際は『未だに観測されてない物質』→『存在しない物質』です。
細かい事ですが、気になったので書いておきました。


さて、質問、と言うよりご指摘ですが。
確かに、arc様に一理ありますね。
実際に帝督自身が作ってる訳ではないです。これは作者も認識はしていたのですが、表現に問題がありました。以下問題箇所。
「まぁ、あれだ『未元物質(ダークマター)』はこの世界に存在しない物質を生み出す…」
って所ですね。ここを「生み出す」ではなく「引きずり出す」としていれば問題はなかったと思うので、訂正しておきます。
ご指摘ありがとうございます^^





はき様より
「綾峰の力でシスターズの死体をごまかしたとして、回収部隊をどうやってごまかしたのかが解らないなぁ。
 見た目はごまかしたとして、あとで処理場に行ったら袋の中身は無いわけですからその辺はあとで気付かれる気がするんですが。」

回答
確かに(おい
この部分については当初から作者も悩んでいたのですが、綾峰なら能力で死体が焼かれて灰になる所まで再現可能じゃね?とか思ってちょっと無視して書いてたりしました。
いや、鋭いご指摘ありがとうございますorz
で、他にも考えたのは、きっとカエル顔の医者が身代わりとして燃やすとかなりの量の灰になる物質を渡してくれたという設定だったりします。
一応、他にも催眠系の能力で誤摩化したとか、他の動物の死体を混ぜる事で誤摩化したとか…orz
色々案はあったのですが、結局まとまらないままでこんな中途半端な形になってしまいました。
すごく重要な部分をこんな適当に書いて本当に申し訳ありませんでした。
今の所は、当初の綾峰の能力ならば灰になるところまで再現可能だったという事で納得してくださると幸いです。
あるいは、もしこれよりも良い案があると言うのならば、ぜひとも教えてください!(こんなんで良いのか?

では、また次回!







その頃の布束についてはあまり影響がなさそうなので、原作『とある科学の超電磁砲』で結果が分かり次第書く事にします(えー

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