スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

七月十九日

「抑えきれなかった……」

夜中を過ぎて、月の光が漏れ入る病室の中で綾峰は1人ごちた。
思い出すのは今日の事件。

”綾峰”は結局何もできなかった。

確かに『多重能力者』は初春と知らない1人の女の子を救った。
でも、”綾峰”は何もできなかった。
犯人の前に立ち、犯人を抑えられる位置にいた。
しかし綾峰は何もできなかった。
確保することも爆弾を止めることも出来なかった。
あのトラブルのあと、起きた白井の手に包帯が巻かれていることに気がついた。
初めは渋っていたが何度も訊ねると、折れたのか渋々、

「爆弾を上空に『空間移動』させる際に触ったので、火傷を少ししたんですの」

と頬をぽりぽり掻きながら言った。
本当に申し訳ないと思った。
幾ら白井の方がレベルは上とは言え、部下に、それも年下の女の子に守られるようでは駄目だと思った。
もっと強くなりたい。
誰にも守られなくても、いや、誰をも守れるくらいに、強くなりたい。
そう、相手が例えレベル4であろうとも、レベル5であろうとも止める力が欲しい。

「俺はもっともっと強くならなきゃ……」

その目は月夜に妖しく光っていた。








とある科学の事件体質(トラブルメーカー)第8話








終業式の日の早朝、綾峰は退院した。

「もう少し休んでも良かったんだよ。一応検査入院とは言え、君が倒れて運ばれてきたことに違いはないしね」

知りあいのカエル顔の医者はそう言ったが、

「今日は終業式ですし、小萌先生に心配かけたくないですから」

と、綾峰は断って自宅である寮に帰った。





一度帰った綾峰は身支度をしてから学校に向かった。
荷物は特に必要はないので鞄だけだ。
そしてクラスについて最初の一言は。

「「ようこそ、仲間(ロリコン)どぶらふぁっ!!!」

ダブルアッパーでロリコン共の粛正をし、その原因である、下手人(かみじょう)と殴り合った。

「止めんか!!貴様ら!!」

そして吹寄に上条と一緒に殴られて止まる。
普通の一日だった。




終業式が終わり、各々の用事でわかれた3馬鹿トリオ(デルタフォース)のうち、上条と一緒に綾峰は街に行くことになった。

「で、どうして俺たちはっ!こんなところでっ!追いかけられているのかなぁ!?上条!?」

夜の街中を走りながら綾峰は隣を並走する上条に質問を投げ掛けた。
2人の後ろには数人の不良達が追いかけてきていた。

「待てやコラァ!」
「ぶっ殺すぞテメェ!」
「血祭りだオラァ!」

しかもご丁寧に脅し文句も不良っぽい。

「何て言うかっ!そのっ!不幸だーっ!!」

「つーか、お前っ!不幸って言えばっ!済むって思ってないっ!? 明らかにあれはっ!お前のせいだーっ!!」

それは上条というよりも、タイミングが悪かったのだと言わざるおえないだろう。
一学期の終業式を終えて、翌日からはもう夏休み。
夏休み突入だぜぇ!というハイテンションな中、はっちゃけてしまった2人は本屋で明らかに地雷としか見えない表紙のマンガや本を買い、夜は退院祝いに外食しようぜっ!オッケー!よっしゃー!ひゃっほーい!という会話をした後、街に繰り出したのだ。
目茶苦茶なノリで適当にファミレスに入った(特攻した)2人はもはや地雷というよりも客をおちょくってるとしか思えないイカ墨入りラーメン風納豆カレーライスなる料理とドリンクバーのセットを頼み、さすがにあまりのテンションの高さに疲れてきた綾峰はジュースでも飲んでまたテンションをあげようと席を立った。
そこで、どんなジュースの配合にするか悩んでいる内に店内が騒がしくなってきたことに気がついて、綾峰は騒ぎの方を見ると、
上条は席を離れて不良たちと口論しているところだった。
横には御坂、そして少し離れた席で白井が魂の抜けた表情でぽかんとしていた。

「何だ、あれ?」

仕方なく、仲裁でもしてやるとするかと思って、上条用に混ぜたコーヒーとコーラの初心者用絶望ブレンドを持ちながら傍にいくと。
不良たちの仲間がトイレからぞろぞろと出てきた。

「…………メンドクセー」

と言ってその場を離れようとした綾峰を見た上条が黙ってればいいものを、

「おい、綾峰!逃げるぞ!」

と声を掛けたのだ。
瞬間、逃げ出す上条。
そして残った不良たち(9人程)の視線がコップを持った綾峰、1ヶ所に集中する。

「…………メンドクセー」

綾峰は全速力で上条を追いかけ始めた。




どうやら上条はさきほどのハイテンションのまま、あの不良たちを”救い”たいらしい。

「だってあいつらあのまま放っておいたら、絶対あのビリビリにやられるんだぞ!」

「まぁ、そりゃそうだろうけど…………」

(だからって、この逃走術はどうにかならないのだろうか?)

上条の言う逃走術は至って簡単で、

「相手の体力がキレるまで追いつかれず、逃げ切らず、走り続けること」らしい。

綾峰は一応風紀委員(ジャッジメント)として訓練を受けているし、自分でもよく鍛えるので苦ではないが。
一つ、この逃走術の最大の間違いに気がついていた。

(あ、1人、次は3人いっぺんか。そんで次は2人、あ、2人やられて、ラストも終わったな)

綾峰は頃合いだと見計らうと途中で足を止めた。

「はぁっはぁっ。おい上条……もういないぞ」

「はぁっはぁっ。追手がいなくなった?捲いたか」

「いや、違う……ッ!上条!右手を前に出せ!!」

「へ?」

瞬間上条に向かって一陣の光が走り、綾峰の言う通りに出した上条の右手がそれを防いだ。
上条の右手から少し溶けたコインのような物が落ちた。

「はぁ、上条。さっきのお前の逃走術の最大の間違えを教えてやる。

 追手自身に追手がいたら意味が無いことだ」

「はぁ、何やってんのよ、アンタら。不良守って善人気取り?」

そう言って出てきたのは御坂 美琴だった。
後ろには白井の姿も見える。

「やっぱバレてたか……後ろの奴らが追ってこないのは……?」

「うん、私が焼いと(やっと)いた」

当たり前のように言う御坂に綾峰と上条はため息を吐く。

「俺らがせっかく……」

「ったく、アンタらのせいで情報逃しちゃったじゃない」

「「情報?」」

上条と綾峰の声がハモる。

「綾峰先輩には私が説明しますわ」

そう言って綾峰の背後に現れた白井がそのまま綾峰を掴んで『空間移動』する。


気がつけば、橋からかなり遠い位置まで運ばれていた。

「んで、情報って何だ?」

「綾峰先輩は『幻想御手(レベルアッパー)』っていうものをご存知ですか?」

「『幻想御手』?何だそれ?」

「使用者のレベルを急激に上げることができるというアイテムらしいのですが、佐天さん、初春のご学友の方がそういう都市伝説があると言っていましたの」

「使用者のレベルを急激に…………上げる?」

綾峰の脳裏に何かがひっかかった。
それは昨日のレベル2が急激にレベル4へ上がったこと。
能力を使う瞬間だけレベルがあがる、まるで何かアイテムを使っているようにも感じられた。

(あれは、『幻想御手』によるものだったんじゃ…………)

「それで、その実体を調べる為にあそこでおとり捜査をしてたのか?」

「…………はい」

白井の声が小さくなる。
本来おとり捜査など許されるものではない。
しかもそのおとり捜査に一般人である御坂を巻き込んだのだ。
綾峰は苦笑して、こつん、と白井のおでこを突いた。

「ッ!?」

「はい、オシオキ終了。次回は気をつけるように」

「…………良いんですの?こんなんで?」

おでこを抑えながら白井が訊ねる。

「あの不良達はかわいそうだったが、結局御坂も無事だし、それに昨日の貸しもあるからなぁ」

「貸し?ってあれは当然のことをしたまでですわ!」

そう言って口を尖らせる白井の額に綾峰は手を載せると、

「良いの良いの。つーか、怪我させちまって悪かったな。でも、おかげで助かった。ありがとう」

笑顔で感謝の言葉を言った。

「ーーーーーッ!!」

白井の顔が一気に赤くなる。

瞬間、凄まじい轟音と共に周辺の電気が一気に消えた。

「んなっ!?なんだ、これは?」

「…………………」

驚いた綾峰が声をあげるが、白井から返事はない。

「…………白井?」

「…お、お姉さまがきっと雷でも落としたのでは?」

慌てたように返事をする白井に、綾峰は不幸な友人の冥福を、

「まぁ、適当に帰ってくるだろ」

祈らなかった。

いつものことだ。

「んじゃ、俺は帰っかな。はぁ、メンドクセー」

白井の額に置いていた手をどかし、綾峰は寮の方に向かって歩き始めた。

「あ、そう言えば結局夕飯食べてねーな。どうしよう」

「あ、あの、だったら私がなにかごちそうしましょうか?」

「…………へ?」

暗闇の中で見えないが、綾峰は驚きのあまり変な顔をしていた。

「え、えっと別に他意は無いのですわよ!お姉さまとのおとり捜査で結果的に綾峰先輩の夕飯の邪魔をしてしまったようなものですし…よく日頃から奢ってもらってますし……」

白井がしどろもどろになりながら言うと、

「いや、流石に後輩に奢ってもらう程俺も落ちぶれてはいないつもりなんだが…」

「はぁ、相変わらず妙な所で義理堅いんですから。じゃぁ、何か私が料理を作って差し上げますわ」

「…………お前って料理できたんだ…そっちの方が驚きだ」

「なっ!?私だって簡単なものぐらいなら出来ますわよ!」

綾峰の軽口に白井はつい、いつものように反論する。

「あ、ああ。わりぃわりぃ。んじゃごちそうになるとしますかね」

「はい?」

綾峰の予想外に素直な言葉に白井は固まった。
なんだかんだで断られるとばかり思っていたので完全に予想外だったのだ。

「え?いや、だからご馳走してくれんだろ?あ、でも料理作ってもらうだけじゃ悪いし、何か作るの手伝ってやるよ」

「え?」

「うん、こう見えてもけっこう前から1人暮らししてっからな。いくつかレシピも教えてやる」

「は、はあ」

「あー、でもそっちの寮は男子禁制だったよな。んじゃ、うちの寮来いよ。食材ぐらいは残ってんだろ」

とんとん拍子で進んでいく話に自分で提案しておいて白井は置いてかれつつあった。

「あ、つーことはこの停電で冷蔵庫止まってる!?あーメンドクセー。よし、白井急ぐぞ!」

「は、はい」

(えええええええええええええええええ!!?)

白井は心の中で悲鳴をあげていた。

スポンサーサイト

Comment

 
管理人にのみ表示する
 

Track Back

TB URL

HOME

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。