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とある2人の初任務 参

「きゅ~い~」

常盤台中学学生寮の二○八号室のベッドの上でクロが大きな欠伸をした。

「クロ、そろそろ寝なさいですの」

白井はクロを撫でながら言うと、白井のベッドからクロ用のタオルで作ったベッドへ移した。

「それにしてもあんたの話聞いてると本当にその綾峰さんが今の綾峰さんと同一人物か信じられないんだけど」

御坂が白井の持ち帰ったケーキを食べながら言った。

「ええ。私も最初は驚いたりしたんですのよ。でも、まぁその後いろいろありまして……」

手をもじもじさせて照れる白井を見ながら、御坂はこの話題をふって良かったと安堵していた。
帰ってきて早々ケーキを出して白井と御坂の出会いを語ろうとする白井をどうにか白井と綾峰の出会い話にしたのだった。

「へぇ~。で?そのいろいろには何があったの?」

「う、お姉さま?は、話さないといけませんの?」

白井は顔を赤くしながら上目使いで御坂に訊ねた。

「綾峰さんならともかくそんな上目使いで私を停められると思うなー」

けらけらと御坂は笑いながら話の続きを急かす。

「わ、わかりましたわ。話しますわよ」

そんなことを言いながらすごく嬉しそうに話す白井が幸せそうで何でか負けた気がする御坂だった。









とある2人の初任務(ファースト・ミッション)~第参話~










綾峰と別れた後、白井は第一七七支部まで帰ってきた。
その表情は暗く、沈んでいる。

「ただいま戻りましたわ」

扉を開けて中に入ると白井に声が掛けられた。

「あ、白井さん」

白井が俯いていた顔を上げると、そこには驚いたことに見知った顔があった。

「あら、初春。どうしましたの?」

「やだな~。私も風紀委員になってここに配属されたんですよ~。それにここ私の中学なんです~」

飴を転がすような甘い声に白井は、あははと苦笑いを浮かべた。

「ところで、白井さんのその服って常盤台中学の服ですか~?」

「え?ええ。そうですわよ」

白井はベージュのブレザーと紺系のチェック柄のスカートを着ていた。

「いいですね~。うちの中学の制服って地味なんですよ~」

ほら、と言って初春は自分の制服を見せる。
初春の無邪気な様子に白井はふふっと笑った。

「そう言えば他の先輩達はどこに行ったんですか?私が来たら誰もいなかったんですけど」

初春の言葉に白井が事務所内を見ると確かに誰もいなかった。
どうしたのだろうと見回している時、trrrrr trrrrrと白井の携帯が鳴った。

「はい、白井です」

『さっきの強盗犯が掴まったよ。そっちは大丈夫だったかい?』

女性の風紀委員だった。

「ええ、まあ」

『そうか、ところで綾峰なんだけど』

「…………すいません、逃がしてしまいましたわ」

白井は少し考えた後、嘘を吐いた。

『そうだろうな。ヤツのことだ。簡単には掴まるまい』

だが、女性の風紀委員はかんらかんらと受話器の向こう側で笑っていた。

「…………綾峰さんのことですけど、その」

『ああ、今日はもういいよ。それより確か今日は新入りの子がもう一人来てるはずなんだけど、そこにいるかな?』

「あ、はい」

白井は珍しそうに支部内を見ている初春を見ると応えた。

『そうか。なら、こんな形で申し訳ないんだが、君たち2人のために用意した席に書類を置いといた。それが終わったら帰っていいから。すまないな、歓迎会もできなくて』

「い、いえ。仕方ありませんわ」

『うむ、それじゃ。また明日』

そう言うと女性の風紀委員は通話を切った。

「………………………………」

「白井さん?どうしました?」

無言で佇む白井に初春は怪訝な顔で聞いた。

「い、いえ。なんでもありませんわ。事務作業を任されましたの。やりますわよ」

「え?私もですか~?」

初春が嫌そうな声を出した。
時間は既に夕方、確かにこの時間からの事務作業は面倒くさいかもしれない。
しかし白井はその考えを振り払うように首を振ると、

「当たり前ですわよ。私達に割り当てられた机に置いてあるとのことで…す……が…………」

初春に諭しながら視線を巡らせて、固まった。

「………………白井さん、もしかしてアレですか?」

「………………そうみたいですわね」

初春の恐る恐るという感じの質問に答えながら、ひくっと白井の頬が引きつる。
初春も同じく頬が引きつっている。
2人の目の前には天井近くまで書類が積まれた2つの机が仲良く並んでいた。

「どうしましょう。どう見ても今日中に終わりそうにないんですけど」

「………………それでも終わらせるしかありませんわ」

ごくり、と生つばを飲みながら白井が応えた。

「えー。無理ですよー」

初春は絶望を感じさせる声で言う。

「いいから。ぐだぐだ言う前にあの山を減らしますわよ」

白井は初春の首根っこを掴み、引きずっていく。

「ドナドナ~」

初春はそんな歌を唄っていた。







「はぁ、メンドクセー」

綾峰は今日何度目になるか分からない口癖を口にした。
先ほどの会話の中でさり気なくあの白井らしき少女のAIM拡散力場を解析し、これで奇襲を受けることはない、と意気揚々に帰っていたというのに。

目の前で放火現場を発見してしまった。

綾峰の目の前には1人の少年がいる。
少年の足下にはポリタンクがいくつか転がっていた。
そして少年の前には油らしき液体に浸ったゴミ袋。
どう見ても放火の現行犯だった。
綾峰はそう言えば最近連続放火事件が流行っているらしいことを思い出した。
もしかすると目の前の少年がその犯人なのかもしれない。
普段なら見て見ぬふりをしてその場を去っていっただろう。
だが、今回はそうも言ってられなかった。
なぜなら、

「何でうちの寮に火を付けようとするかねぇ」

引っ越してさして日数も経っていない学生寮。
燃やされると結構、というよりかなり今後の生活に支障が出てくるだろう。
それはきつい。
また黄泉川のところに泊まるのは、健全な高校生として精神的に辛いものがあった。
回りを見るが、どうやら誰もいないようだ。
少なくとも、AIM拡散力場を感知する限り放火を止められる位置にいる能力者はいない。

「っち。メンドクセーなぁ」

綾峰が言っているうちに少年は懐からライターをとり出した。

(しかも能力を使わないって、くそ。直接止めるしかねぇのかよ)

綾峰は舌打をして、両手を塞いでいる買い物袋を下ろすと、目の前の少年に向かって走りだした。

「何やってんにゃー?」

「なっ!?」

しかし、声と共に少年を止めたのは綾峰ではなかった。
金髪にサングラスをした学生がライターの火をつけていた少年を殴り止めたのだ。
金髪の少年は放火犯(この場合は未遂犯か)を殴り倒すと落ちたライターを拾った。

「ったく。何だってうちの寮を……」

ぶつぶつと呟きながら少年は携帯をとり出して警備員(ジャッジメント)に電話をし始めた。
一連の流れを少し離れていた位置から見ていた綾峰は、

「………………だろうな。これが『舞台』なんだ。『観客』はいらねぇんだよ」

何かを噛みしめるように呟き、地面に落とした買い物袋を持つと自分の部屋へと帰っていった。






「お先に失礼しまーす」

「お疲れ様じゃん」

とある高校の職員室で、黄泉川は先にあがった同僚に挨拶をすると机に付けられているディスプレイで警備員(ジャッジメント)の新着情報を確認していた。
すると、軽快な音と共に1つの情報が更新された。

「ふむふむ………………ってこれうちの男子用の学生寮じゃん」

「どうしましたー?」

黄泉川の声に反応したのか、同僚の小萌先生が尋ねてきた。
黄泉川は椅子の背もたれに寄りかかりながら今仕入れた情報を伝えた。

「ああ、今話題の『連続放火事件』ってあるじゃん?あれの模倣犯がうちの学生寮を燃やそうとしたんだとさ」

「えー!?せ、生徒は大丈夫だったんですかー!?」

小萌の心配そうな様子に反し、黄泉川は笑いながら答えた。

「結局、新入生の1人が捕まえたとかでけが人は無し。学生寮自体も燃えずにすんだらしいじゃん」

「そ、そうですか~」

小萌は見た目が小学生の割りに生徒を一番と心得ている先生で、こういう事態の時は真っ先に生徒の安否を確認するのだ。
そんな小萌の安堵した様子に黄泉川はにやりと笑いながら、

「なーに、うちの生徒なら燃やされても死にゃしませんって」

「むー、黄泉川先生。うちの生徒は黄泉川先生みたいに丈夫じゃないんですよー?」

黄泉川の軽口に真剣な様子で返す小萌にこらえ切れずに黄泉川は笑った。

「私は真剣なんですよー?」

「はは。ごめん。ごめん。それにしてもいつになったら『連続放火事件』の犯人が捕まるんだか……」

黄泉川は「はぁ」とため息を吐く。

「その『連続放火事件』って最近よく聞きますけど、中々犯人が捕まらないですよねー。ニュースで見たりする分には特に目立った事件って感じじゃないですけど」

「確かに事件のほとんどがぼやで終わって、特にこれといった大事件には発展してないし、事件自体にも特にこれといった特異なところは見られないんだけど。問題なのはその方法じゃん」

「どういうことですかー?」

「未だに分からないんだよ。毎回近くにある監視カメラを全部確認するんだけど、どれも犯人が写ってないじゃん。それに犯人の動機がいまいち不鮮明なところも原因かな」

「なるほど。それはやっかいですねー」

「そう言えば、小萌先生って『発火能力者(パイロキネシス)』が専攻だったじゃん。何か遥か遠距離から対象を発火する能力ってないの?」

「んー。先生が知ってる限りではないですねー。『発火能力者』は多いですけど、どれも手や足などの体の一部か、体全体といったような体の近くを燃やす能力ばかりですー」

「んー。だとするととりあえず現行犯で捕まえるしかないじゃん」

「でも、その前に黄泉川先生は明日の入学式のための資料作り急いで欲しいですー」

「…………わかってるじゃん」







「終わらないですよ~」

春とはいえ、まだ早い日没のころ、第一七七支部では初春が机につっぷしていた。

「だらしないですわよ、初春。まだ10分の1も終わってませんのに」

初春につっこみつつ、白井も終わりの見えない書類の山に相当まいっていた。
しかし2人の前には未だに山のように積まれた書類が立ち塞がっている。

「でも、白井さん。いくら何でも無理ですよー。この書類の山って私達のような新米が一日で軽く終わらせられる量じゃないですもん」

「…………でも任された以上、やり切るのが仕事ですわよ」

白井自身もそうは言いつつ、これは終わらないと心のどこかで確信していた。
初春はしばらくうーんと、唸っていたが、突然起き上がると白井に向かって言った。

「だったら伝説の風紀委員の方を探したらどうですか?」

「…………伝説?」

予想外の初春の提案に白井は怪訝な顔をする。

「ええ、あらゆる書類を常人の100倍近くの速度で終わらせるという伝説の風紀委員です。私、ここに配属される時に担当の先輩に聞いたんですよ~」

「…………まさか、その風紀委員の名前って綾峰唯鷹とか言いませんわよね?」

「あ、白井さんも知ってたんですね。ええ、あの伝説の「却下ですわ」えーー!?なんでですか!!?」

白井の言葉が予想外だったのか、初春は珍しく大声で聞き返してきた。

「あんな男の力を借りるぐらいなら自力で終わらせますわ」

白井は数時間前のことを思い出しながら、吐き捨てるように言った。

「? 白井さん、会った事あるんですか!?」

「ええ、思い出したくもないヤツでしたわ」

白井の反応に少々疑問を感じながらも、初春は言葉を続けた。

「でも、このままじゃ終わりませんよー」

「それは、そうですけど…………」

白井もそれを自覚しているからこそ、初春の言葉に詰まってしまった。
白井の住む常盤台中学学生寮は寮生の門限はかなり厳しい。
実際、数日前に白井が入寮した際に遅刻した上級生が罰を受けているのを見た事がある。
詳しく言うのは避けるが、どの寮生もあの上級生と同じ轍を踏むのは絶対に気をつけようと心に固く誓ったとか。
白井自身もああはなりたくない。
しかしこのままでは仕事は終わらず、このままでは門限に間に合わないのも明白。
すなわち、白井に残されている道は1つだけだった。

「………………はぁ、分かりましたわ。探しに行きますわよ、初春」

「はい!」

白井の渋々と言った声に初春は元気に応えた。







「………………やっぱ外食は高いな、メンドクセー」

地下街に来ていた綾峰は呟きながら歩いていた。
本来の予定では家で作るはずだったのだが、今日は買い物袋を何度か落としたことが原因で料理で使うはずだった卵が全て砕けており、使い物にならなかったのだ。
そこで地下街に来て外食をすることになったのだ。
それにしても、と綾峰は昼過ぎの事を思い出す。
いそべ銀行での強盗事件、その現場で会った新米の風紀委員、白井黒子。

(「私は貴方を風紀委員(ジャッジメント)だなんて認めません!!」か……)

そりゃそうだろう。
現風紀委員の中でここまでサボりまくっている風紀委員は自分くらいなものだし。
もともと綾峰は風紀委員などなりたくなかった。
だが、風紀委員になることにより、能力者の一覧が載っている『書庫(バンク)』を閲覧できたり、成績に良い影響が出るというメリットがあった。
だからこそなったのだが、任される仕事は全て書類仕事ばかり。
果てには副支部長とかいう役職にまで上り詰めていた。
正直デメリットの方が徐々に大きくなっていたのだ。
そして最終的には逃げ出すことになった。
はぁ、メンドクセーと呟いた綾峰はいつの間にか自分が路地裏に入っていたことに気がついた。

「?」

その時、ふと違和感を感じた。
目の前にはごみ箱と空になったポリタンク。
ごみ箱は液体で濡れていた。
そして綾峰は目の前に誰かがいることに気がついた。
AIM拡散力場を感知できるからこそ見えるそれに、綾峰は意図せず能力を発動した。
そこには、

「『偏光能力』か……」

姿を隠した能力者がいた。
綾峰の呟きに能力者は気がついたのか、慌てる様子で綾峰の方を見た。

「………………もしかしてこれって放火現場?」

今日で何度目なんだよという綾峰の呟きは最後まで出なかった。
なぜなら、

「がっ!?」

言う前に綾峰の背後から誰かが綾峰の後頭部を鉄パイプのような物で殴りつけてきたからだ。
綾峰の意識は急激に闇に落ちていった。

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