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八月六日 陸【狂乱逢引編】

第七学区の裏側、路地裏の奥にてその戦闘は繰り広げられていた。
『多重能力者(デュアルスキル)』VS『無能力者(スキルアウト)』というある意味で極地に対する者同士の戦闘は、始まってから20分間も続けられ、路地裏に様々な傷痕を残していた。
地面のアスファルトは抉れ、壁は凍り、窓は焦げ、砕かれた壁のセメントが地面に突き刺さり、まるで数十人以上の能力者同士による戦闘が行われた後のようになっていた。

その中心に3人の能力者達の姿があった。

1人は黒い仮面と合羽を着た『多重能力者』の綾峰。
もう1人はスキルアウトの駒場利徳。
そしてもう1人は同じくスキルアウトの服部半蔵だった。
誰かが動けばそれに合わせて他の2人が動き出す。
半蔵の死角からの攻撃に綾峰は直前で気付き、無理矢理体勢を崩し避ける。
体勢を崩した綾峰に駒場の蹴りが迫るが、綾峰はそれを黒い物体で防ぎ、そのまま地面を走らせるように『風力使い』の刃を走らせる。
駒場はそれを辛うじて避け、そこに綾峰は更に空気を固めて作った塊を投げつけようとする。
しかし綾峰の攻撃は半蔵の死角からの攻撃によって中断させられる。
そして3人は再度もとの膠着状態に戻るのだった。
先ほどから繰り返された動きだった。
綾峰の使う能力や半蔵の死角からの攻撃手段は毎回違うものの、結局この膠着状態に戻された。

(とことんまで時間を稼ぐのが狙いって訳か…………)

綾峰は苦々しげに奥歯を噛みしめる。
このスキルアウト達が何のために動いているのかわからない今、安易に彼らを信じるわけにはいかない。
黄泉川という単語が出てきたのも聞こえていたが彼らと黄泉川の繋がりが綾峰にはいまいち掴めなかった。
本来、警備員(アンチスキル)の黄泉川と、無能力者集団(スキルアウト)の彼らが協力関係になどならないからだ。
黄泉川にぞっこんな男がいることを知らない綾峰は、

(だから、雲雀は俺が救う)

そう決意する。

「…………イイ加減、ココヲ通シテ貰オウカ」

『音波使い』の能力の不調もだいぶ回復してきたらしく、綾峰は男とも女ともつかない声でスキルアウト達に言う。

「……そうもいかない。何の目的で動いているのか分からないお前を放せば何をするかわからん」

「オレハアノ子ヲ救イタイダケダ」

「信じられないな。確証がない」

「………………ナラバ、無理矢理ニデモ通ルマデダ」

綾峰は『空間移動』で消える。

「っな。リーダー!」

半蔵が慌てるが、陰鬱な声で駒場は落ち着いたまま言う。

「……大丈夫だ。逃げられたとは言え、これだけの時間を稼げたのなら大丈夫だろう。ここに来るまでに黄泉川にも連絡しておいたしな」

「そうか」

「……それにしてもアイツはいったい…………」

そう言うと2人基地に向かって歩き出した。











とある科学の事件体質(トラブルメーカー)第31話










綾峰が『空間移動』によりスキルアウト達から逃げ出した頃。

「ふう、こんなものですわね」

手をぱんぱんと叩き白井はダーツで路地裏の壁に貼り付けられて気絶している浜面達の横の地面を見る。
そこには未だに眠っている黒髪の少女がいた。
碓氷雲雀、綾峰の妹分の少女だった。

「あの方の回りはいつもこんな風に事件ばかり起こってるんですのね」

そう言って白井はため息を吐いて少女に近づく。
一見した所はワンピースが多少汚れているだけで怪我はないようだが、起きないのは薬でも嗅がされて眠っているのだろう。
白井はしゃがんで雲雀を病院に連れて行くために担ごうとして、その手を止めた。
いつの間にか白井は数十人の少年達に囲まれていた。

「何の用ですの?私これからこの子を病院に連れて行くところですの、そこを退いて下さります?」

白井は警戒をしたまま太もものダーツに手をのばす。
しかし少年達はにやにやと笑いながら立っているだけだ。

「俺達さぁ、『デモンズ』っていうんだけどさぁ。その子のお姉さんに頼まれてるんだ。その子を連れてきてくれってさぁ」

しびれ薬からどうにか復活した『デモンズ』の少年達の1人がにやにやと笑いながら言い、

「いひひ、そういうわけだから風紀委員さんはどっか行ってくんね?」

別の少年が嫌な笑い方をする。

「ここまであからさまに怪しいあなた達にこの子を預けられる程、私の目は節穴じゃありませんわ」

白井ははっきりと拒絶の言葉を口にすると、少年達はにやにやと不気味な笑いを浮べながらじりじりと囲みを縮めてくる。

「…………それ以上近いたら、正当防衛でダーツの餌食にしますわよ」

白井は壁側に雲雀を庇うように移動しながらダーツで威嚇する。
しかし、少年達には効かなかった。

「ひははは!やっちまえ」

1人の少年の声を合図に少年達は一斉に白井に襲いかかった。
直後、轟、という音と共に少年達が吹き飛んだ。

「おいおい、ガキの使いにしちゃ数が多すぎねぇか?つーか、邪魔だ。雑魚共」

そう言って現れたのはヤクザと新人ホストを足して2で割ったような少年だった。
茶髪に紅い学生服を着た少年の登場に『デモンズ』の少年達は身構える。

「死にたくないヤツはささっと逃げた方がいいぜえ」

垣根帝督はそんな彼らにこにこと笑いながら言い放った。

「何だよ、おま……うわぁ!!」

突然現れ、高圧的な相手に少年達の1人が声を荒げるが、刹那、彼の回りから風が巻き起こり少年を吹き飛ばした。
同時に、レベル4の『風力使い』でさえ顔を青くするような轟風によって白井と雲雀を除いた他の少年達が吹き飛ばされる。
路地裏に少年達の山が出来た。

「そうじゃねえと、今度は都市の外まで吹き飛ばすぜ?ってもう遅えか」

面倒くさそうに帝督は言うと、のんびりとした歩き方で雲雀に近づいていく。
その前を白井が塞いだ。

「あん? 何の用だ、テメェ」

「あなたこそ、この子に何の用ですの?助けて頂いたのは感謝しますが、目的によっては風紀委員としてあなたを拘束しますわ」

白井はきっとした表情で帝督を見上げながら前に立つ。
白井は気付いていた。この男が”お姉さま”と同じ位置に立つ者達の1人だということに。知識としてではなく、直感的に気付いていた。
それはまるで能力者としての本能のようなもの、細胞の1つ1つがこの男がヤバいと警告している事に気がついていたが、それでも白井は前に立つ。
危険な存在から一般人を守るのが、『風紀委員(ジャッジメント)』としての本分なのだから。

「ったく、メンドクセェ。俺だって穏便に済ましたいってのによう」

そう言って、帝督は”警告”した。

「退け」

「退きません」

刹那、白井の眼前が白い閃光が走り、全身に衝撃が走った。

「え?」

と言う暇すら無かった。
白井はそのまま反対側の壁に激突し、地面に倒れる。
何が起きたかも分からないまま、それでも白井はすぐに起き上がろうとする。
しかし帝督の右足が起き上がりかけた白井を再度地面に踏み落とした。

「だから『退け』って言っただろ?」

帝督は白井の右肩に乗せた右足に体重を加えていく。
グゴキッという骨と骨が擦り合わされる様な音と共に白井の右肩がの関節が外れる。

「………………………!!」

白井は激痛のあまりに悲鳴すら出ない。
暴れる白井を地面に縫い付けたまま帝督は言葉を続ける。

「ったく、俺は確かに外道のクソ野郎だが、邪魔をしねえなら見逃す程度の度量はある。それが悪党だろうが一般人だろうがな。だが、テメェがテメェの意思で俺の邪魔をするってなら話は別だ。俺は俺の敵には容赦はしねえ。頼むぜーお嬢さん。この俺にテメェを殺させんじゃねえぞ」

グギリゴギリッと外れた骨が強制的に動かされ、強烈な激痛が断続的に連続する。
白井は『空間移動』をしようとするが、強烈な激痛に演算は掻き乱され意識が遠のきかける。
何故こうなったのか分からない理不尽さ、手も足も出ない程圧倒的な暴力に対する恐怖、そして状況を打破できない悔しさ。負の感情で全てがぐちゃぐちゃに混ざり合い、巨大な重圧となって白井の人格を内側から圧迫していく。
そして、その中で意図的に提示された、1つの逃げ道。

「テメェは黙ってそこで待ってればいい」

激痛に意識が朦朧とする中、帝督の言葉だけが響く。

「そうすればこれ以上テメェを傷つけるようなことはしねえ」

その言葉に白井の風紀委員としての矜持、白井の人格、その全てが『痛みからの解放』に向かい、知らない内に涙が溢れ唇が震え動く。

「…………………………、……」

「あん?なんだって?」

白井の言葉が理解できないと言うように帝督は眉をひそめる。
聞き返した帝督に白井は力強く言い放つ。

「聞こえなかったならもう一度言ってあげますわ。退きなさい、クソッタレ。暴行傷害の現行犯として拘束しますわよ」

「…………良いだろう。俺が俺の敵に容赦しねえってのを知っていながらそれでもテメェが『俺の敵』を選択するなら、仕方がねえ」

白井を縫い止めていた足を振り上げ、そこらに落ちている空き缶を踏みつぶすが如く、その足を振り下ろす。

「だからここでお別れだ」

白井は目に涙を溜めてその瞬間を待つ。
しかし、その瞬間は訪れない。
何故なら圧倒的な力とも言える何かが帝督を貫いたからだ。
それは烈風と言うのも生温い、正に鉄槌。
圧倒的な質量を持ったそれは音すらも後から追うように響き、帝督を弾き飛ばした。
白井が見たのは帝督が吹き飛ばされ、奥に転がっていたスキルアウト達の山にぶつかるところだった。

「コレガドンナ状況デ、テメェガドンナ目的デソンナコトヲシテイタノカ知ラナイガ。1ツ事実ナノハ」

裏通りの入り口、表通りに面するその場所から、白井は確かに聞いた。
男とも女ともつかない、学園都市という『科学』の世界の中で都市伝説という『オカルト』として語られる、幻想のような声を。

「テメェハ俺ヲ怒ラセタ」

表通りからの逆光と黒い仮面に黒い合羽で身を包んだ『多重能力者(デュアルスキル)』がそこにはいた。






「あ………………あなたはいったい…………」

「寝テロ。白井」

「……………………な、んで。私の名前を……?」

そこで白井は痛みに耐えきれなくなったのか気絶した。
綾峰は白井の外れた肩を戻すと、そのまま抱き上げて移動させ、雲雀の横に寝かせた。

「痛ってえな」

その時、路地裏の奥から静かな声が聞こえてきた。

「そしてムカついた。いきなり現れやがって。テメェのその格好は聞いたことあるぞ。確か、『多重能力者』だったか」

「学園都市第2位、垣根帝督。何故オ前ガコノ場ニイル」

「俺がどこにいようと、俺の勝手だろう。1つ確認するぜ、テメェは俺の敵か?」

帝督の問いに綾峰は堂々と答える。


「敵ダ」


「いいねえ。分かりやすいのは好きだぜ。じゃあ、死ね。ブタ野郎」

直後、路地裏にバオッという轟音が響いた。
帝督と綾峰が激突する。
2人の激突の余波が路地裏を駆け巡る。
先ほどの帝督が放った轟風より遥か数倍をいく爆風が路地の中のありとあらゆるものを吹き飛ばしていく。
そして結果は意外にも、お互いが吹き飛ばされた。
しかし、帝督は上空に飛ばされ、綾峰は地面に叩きつけられた。
それが2人の能力の差だった。

「……ッグ。ズラサレタカ」

綾峰が仮面越しに上空を見ると、そこには一対の白い翼を羽ばたかせた帝督がいた。

「趣味ガ悪イナ、メルヘン野郎」

「うるせえ、自覚してる」

言葉が終わると同時に2人は動き出した。
綾峰は『念動力』と『肉体強化』、そして『運動変速』を使って空中をジグザグに跳ね回りながら帝督をかく乱する。
帝督は翼から羽を飛ばして綾峰を迎え撃つが、音速移動と、停止を繰り返す綾峰に中々狙いを定めることができない。
そこへ、綾峰は四方八方から風、雷、炎、水、氷、黒い物体で矢を作り出し帝督に向かって放ち続ける。

「くっ……そっがあああああああ!!」

更に2枚の翼を出して、合計4枚の翼で帝督は綾峰の放つ無数の矢を烈風により弾き飛ばす。
ここに2人の能力は拮抗した。
綾峰がある程度近づくと、烈風が綾峰を狙い、綾峰は退避せざるをえない。
綾峰がある程度離れると、烈風が届かず、綾峰の速度と無数の矢によって綾峰の接近を帝督は許してしまう。
一定の距離を保ったまま2人の能力者は第七学区の上空でお互いの能力をぶつけ続けた。
数分間の拮抗の後、2人は上空で止まり、にらみ合った。

「ったく。まったくもってメンドクセェ。初めは簡単な仕事だったはずだったってのに。それにしても、テメェの手品。面白えがいい加減飽きたんでな。潰すぜ」

「………………………………黙レ、ガキ」

「っは。俺の能力『未元物質(ダークマター)』に潰されることを誇りやがれ!!」

直後、帝督の背後から更に2枚の翼が展開され、合計6枚になった翼の内2枚から烈風を超える轟風が放たれる。
それを綾峰は軽々と避けるが、その動きを読んでいたとばかりに綾峰の移動した先へ2枚の翼から放たれた無数の羽が弾丸の如く飛んでくる。

「ッグ!!」

綾峰はそれを『空間移動』で避け、帝督の背後に回る。
そこに残りの2枚で作られた衝撃波が綾峰を襲う。

「ッガ………………ァ」

衝撃波をまともに喰らった綾峰は音速に近い速度で地面に叩きつけられた。
綾峰が落ちた衝撃で地面のアスファルトが歪み、クレーターを作った。

「っは、楽勝だったぜ。『多重能力者』。上空で俺に勝てるヤツはいねえ」

勝ち台詞を言って帝督は嗤う。
そこに、

「………………なら、テメェが堕ちてこい。第2位」

綾峰の本来の声がした。

「何!?」

直後、ぶん、という乱雑な音と共に帝督の翼がぶれる。
一瞬後に、4枚の翼が消え、帝督は重力に従って地面に向かって落下し始める。
慌てて2枚の羽を羽ばたかせ、帝督は体勢を整えようとするが、

「喰らえ」

綾峰の声と共に一気に帝督は本来の重力加速度を上回る速度で落下した。
轟音と共に路地裏に第2位が激突した。
クレーターを作った帝督は翼でどうにか衝撃をやり過ごしたが、起き上がれないでいた。

「………………っぐっあああああああ!!」

そこには本来の地球の重力の3倍の力が帝督に降り注いでいた。

「『重……力操…作』……か」

しかし、それだけで終わらない。
帝督の上空、十数メートルの空間に黒い物体により巨大な固まりができていく。
綾峰はそれを帝督の上に叩き落とした。
ズドン、と地震のような衝撃が回りに響く。
ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、ズドン!!!!!!

数十回と繰り返される攻撃に帝督は幾らか抵抗したが、すぐに動けなくなり、翼が消えた。
直後、重力が元に戻った。
路地裏の影から綾峰は黒い仮面などが消えた姿で帝督の前に現れると、言った。

「お前の能力の『解析』は終わった。楽勝だったぜ。『未元物質』」

綾峰はくるりと、帝督に背を向ける。
その表情には疲労が見え隠れしていた。
左腕は疲労のあまりに維持すらできなくなったのか、消えていた。
だが、全てを終わらせた綾峰は安堵の表情に溢れていた。
第2位を倒す事ができたのはある意味で運が良かったとも言える。
と、綾峰は考えていた。
もしも、帝督が『重力操作』による重力攻撃と黒い物体のハンマーで倒れないのであれば、綾峰に勝ち目はなかっただろう。
『未元物質』の『解析』は確かに終わっていたが、綾峰の今の演算能力では帝督の演算能力を抑えきれず、翼でさえも2つ、いや、今なら4つも展開されるだろう。


「おいおい、待てよ。クソ野郎。これで終わりなわけねえだろが」


だから、今、綾峰は絶対絶命のピンチだった。
綾峰の背後で6枚の翼を展開した帝督がクレーターの中心に立っていた。








「っは。たいした能力だな。認めてやるよ。テメェをよう。テメェは俺が全力を出すのに値する」

「………………………………」

「それにしても、その姿がテメェの正体か?思ったより普通だな」

綾峰は何も言う事はできない。
今、綾峰に能力らしい能力は使えない。
ましてや、敵は先までの能力ですら全力でないと言う。
勝ち目などなかった。
これが、レベル5。
軍隊と戦えるとまで言われた超能力者達の1人。
そもそも『多重能力者』と言えど、唯のレベル4、大能力者だ。
勝てるはずがない。
だが、ここで負けるわけにはいかない。
帝督は仕事だと言う。
ならば綾峰も白井も雲雀も殺されるだろう。
そこに幾許の猶予はない。
帝督は殺す。
綾峰の大事な人が殺される。
綾峰と関係ないあのスキルアウト達ですら殺される。
綾峰の思いをまだ伝えてない人も殺される。
そんな事が許されることが許せない。
だから、綾峰は走った。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」

無謀にも、勇敢にも、無為にも、愚かにも、

「っは」

学園都市第2位に文字通り、己の拳1つで殴りかかった。

「くっだらねえ」

回答はその言葉と、音すら吹き飛ばす轟風だった。
吹き飛ばされて壁に激突し、綾峰の意識はそこで途絶えた。







壁に埋まった『多重能力者』の少年に向かって帝督は歩いていく。
その息の根を確実に止めるために。

「ったく。俺の能力を不完全ながらも封じるとはな。こいつレベル5の資格があるんじゃねえか?………………ま、今となってはそんなことはどうでもいいか」

敵には容赦しない。
それが帝督の信条だ。
だからこそ、今自分の敵だったこの男は殺す。
そして羽を飛ばすために翼を羽ばたかせようとしたその時、Prrrrrと帝督の携帯が鳴った。

「っち。………………俺だ。どうした?」

場違いな携帯の音に気を削がれた帝督は翼を消し、携帯に出た。

『戦闘中止。彼を殺してはダメですよ』

「………………テメェか」

『スクール』の上司である「電話相手」だった。

「おい、テメェ。どういうつもりだ。せっかくこっちが興に乗ってたってのによ」

『彼を殺すのは重大な違反になりますのでねぇ。私もできれば関わりたくないのですが。そもそも今回貴方は動く予定ではなかったはずですが?私は貴方に指令を下した覚えはありませんよ?』

男とも女ともつかない声の相手の話を聞いて、帝督は一瞬考えると結論に至り顔を苦々しく歪める。

「………………あのアマ。俺に自分の仕事を回しやがったな」

『心理定規』のしたり顔が帝督の脳裏に浮んだ。

『どうやらそのようですね。まぁ、もののついでですから例のチップもしっかり回収しておいて下さいね』

「………………わーったよ。っち。テメェら学園都市の第2位を軽々しく使い過ぎじゃねえか?」

言いながら帝督は先ほど『多重能力者』とぶつかった路地裏へ足を向けた。

『そうですか?私としては今回は貴方の自業自得だと思いますが』

「うるせえ。殺すぞ。テメェ」

『はは、怖い。怖い。まぁ、『スクール』のメンバーとは仲良くやってくださいね。『未元物質(ダークマター)』』

「別に仲良しこよしのメンバーじゃねえだろうが。テメェに指図される覚えはねえ」

『まぁ、私もそんなことはどうでも良いんですが、一応あなた方の上司ですからねぇ~』

「気色悪っ………………ん?」

『どうしました?』

「どこに行きやがった?」

帝督は先ほどの路地裏に着いた。
はずだった。
しかし、そこには誰もいなかった。
場所は間違えてない。
帝督の放った烈風の傷痕がその路地裏には残っていた。

「おいおい、あいつらすぐに動ける体じゃねえだろうが」

『どうやら『座標移動(ムーブポイント)』したようですねぇ』

「『座標移動(ムーブポイント)』だあ?何だそれは?」

『「空間移動」系の能力の1つですよ。対象に触れず対象を『空間移動』させるという能力です。演算能力はレベル5並と言われています』

「電話相手」の言葉の意味を探るように一瞬眉をひそめた帝督だったが、すぐにその表情は驚愕に変わった。

「………………まさか」

『ええ、どうやらあなたとの戦闘中に『座標移動(ムーブポイント)』して一般人を逃がしていたようですねぇ』

「クソが。良い度胸じゃねえか。っは。ムカついた。そして気に入ったぜ『多重能力者(デュアルスキル)』」

帝督の表情が玩具を与えられた少年のように歪んだ。

「で、あのガキはどこにいる?」

しかし、何はともあれまずは仕事だ。

『多重能力者』と戦う機会はまた今度にとっておこう。

帝督は密かに決めると「電話相手」の言葉を待つ。

『……今は白衣の男と共にいるようですよ。確か、蛇縞でしたっけ』

「おいおい、あの野郎まだ生きてたのか?ゴキブリ並だな」

半分以上呆れた声で帝督は言う。

『急いで回収してくださいね。割りと近くまで『警備員(アンチスキル)』が来ているようですし』

「わーった。切るぞ」

そう言って帝督が携帯を切ると端末のGPS機能に点が浮かんでいた。

「さっさと終わらせるか」

帝督は翼を展開し、その場を去った。








「ひ、ひっひひひひいいひひひひいひいっひひひ」

壊れた玩具のような嗤い方をしながら蛇縞は走っていく。
左手に幼女を抱え、右手にはメモリーチップを持ち、蛇縞はなりふり構わず走っていた。
時間は2時ジャスト。
約束の時間までまだ3時間ほどあった。
蛇縞は慌てていた。
急がねば、急がねば。
その単語だけが蛇縞を内側から圧迫するように突き動かしていた。
そして第七学区の路地裏を走る途中に、上空から声を掛けられた。

「よう、そのガキ置いていけ。ああ、あとついでにそのチップも」

「いひひっ!?」

蛇縞の目の前には白い翼を生やした帝督がいた。
蛇縞はポケットにチップをしまうと、同じポケットから黒光りする金属の物体を取り出した。
それは拳銃と呼ばれる物体だった。

「いひがッ!?」

しかしそれもすぐに使い物にならなくなる。
帝督の出した羽の弾丸によって右手ごと切断されたのだ。

「もう、メンドクセェんだよ。さくっと終わらせてえの」

そう言うと帝督は有言実行とばかりに蛇縞を軽々と斬り殺した。
どちゃり、と肉塊が転げる。
その中、赤く染まった白衣のポケットからチップを取り出し、帝督は適当にまだ白衣の白い部分で拭くと自らのポケットにしまった。
そしてふと、地面に転がった雲雀と目が合う。
地面に落とされた衝撃で覚醒したのか、雲雀はまだ朦朧としているようだが、

「カキネの……おにーちゃん?」

と訊ねてきた。

「っち」

殺人の目撃者は殺す。
それが基本だ。
だが、

「その羽、天使みたいでかっこいーね」

赤くそまった少女はそう呟く。
それが帝督がかつて見たある姿に重なった気がした。

「………………クソが」

それだけ呟くと、帝督は何もしないで去っていった。
その背後から『警備員(アンチスキル)』の車のサイレンが聞こえてきていた。









「………………………………君はやっぱり看護婦好きなんだろ」

「いやいやいやいや、いきなりそれ!?死に体でどうにか戻ってきた患者に第一声がそれってやっぱあんたおかしいよ!!」

カエル顔の医者の発言に綾峰は全力でつっこんでいた。
時間は夜の18時。
警備員(アンチスキル)によって発見された綾峰は病院に搬送されて治療を受けた後だった。
幸いにも軽度の全身打撲だったため、全身に包帯を捲いてはいるものの、入院は避けた綾峰だった。
帝督に敗れた後のことを聞くと、どうやら雲雀は無事発見されたらしい。
ただ、全身返り血で血まみれだったそうで黄泉川が珍しく、発見したその場で気絶したとか。
今は黄泉川の看病を雲雀がしているらしい。
本末転倒も良い所だ。

「それにしても、最近、確かに病院ばっかだったしなぁ。でも入院しないってある意味、俺って成長したんじゃないですか?」

「………………やっぱ君は看護婦マニアだよね?」

「だから違うっつってんだろおおおおおおおお!!」

「………………え?何だって?」

「ぼけた!?あんたついにぼけたのかッ!?」

「ねーよwwwww」

「うぜええええええ!!」






カエル顔の医者と話を終えた後、綾峰は病室の1つに向かう。
病室の入り口には「白井 黒子」と書かれていた。
肩を無理矢理外された事から検査入院となったらしい。

「失礼しまーす」

ノックをすると同時に扉を開けて中に入ると、

「ッ!!」

頭上から初春が落ちてきた。

「は!?」

ごんっと、鈍い音が病室に響いた。






「白井、白井さん、白井様?確かに俺が悪かったとは思う。でもね。いくら着替え中に俺が入ってきたからって、初春を人間弾頭にするのはやめなさい。痛いから。主に俺が、あとついでに初春が」

少しの間気絶をしていたらしく、綾峰が気がついたら患者用の服を着てベッドに座っている白井だけが部屋にいた。
初春は既に帰ったらしい。
綾峰は諭すように言いながら、白井のベッドの横にある椅子に座っていた。
白井の左肩で吊るされた右腕が痛々しかった。

「それと今日はごめんな。遅刻しちゃって。目の前で誘拐された雲雀を追いかけてたら車に轢かれちまってさ」

ほれ、と全身の包帯を見せながら綾峰は嘘を吐く。

「そんで気がつけば雲雀は黄泉川に救われてるし、白井は襲われたって聞いたし………………本当、俺って役立たずだな。わりぃ」

最後の謝罪に2つの意味を込めて綾峰は言う。
白井は綾峰の陳情を無言で聞くと、最後に1つため息を吐き、言った。

「………………本当は私、知っていますのよ」

その瞬間、綾峰の肩がびくんと跳ね上がった。
表情が亀裂が走るように崩れた。

「……………………何の、こと?」

綾峰の声が乾燥したように擦れる。

「今回も本当は綾峰先輩が私を救ってくださったのでしょう。それに綾峰先輩が今まで、私の知らないところで誰かのために戦ってきた事も知っていますわ」

「………………………………」

白井の畳みかけるような言葉に対して、綾峰は何も言わない。
否定も肯定もしない。

「別に私に話せないなら無理に話さなくても結構ですわ、ただ、隠して欲しくないんですの。嘘をつくなってことじゃなくて、ただ、隠して欲しくないんですの」

「………………………………」

「自分でも変な事を言ってるのは分かってますわ。でも、これが私の気持ちですの」

2人の間に沈黙が満ちる。
白井は俯きながら、ため息を吐く。

「………………白井」

綾峰が意を決したように口を開いた。

「何から話せば良いのか、何から話すべきなのか、俺にはまだわからないが。1つだけはっきり言えるとしたら」

「言えるとしたら……」

「俺が今回この怪我をしたのは白井のせいじゃない。ただ、俺の守りたいものを守るために戦った。それだけだ」

「綾峰……先輩」

「いつか話すよ。本当のこと」

「……はい。待ってますわ」

白井は優しい笑みで頷いた。

「…………そういや、この前の返事してなかったな」

今度は白井の肩がびくんと跳ね上がる番だった。

「は、はひ」

白井の反応につい綾峰も緊張してしまう。
だからこそ、答えはシンプルだった。

「えっと、その。………………つ、つきあって、くだ、い」

噛んだ。

「…………ぷっ」

くすくすと白井は笑う。

「わ、笑うなよ!」

「だ、だってそんな大事なところで噛みますの?普通」

「あー、その、もう一度チャンス下さい」

「いいですわよ」

白井はすっかりペースを取り戻したのか大人の余裕な笑みを浮かべている。
綾峰は深呼吸をすると、白井をしっかりと見据えた。

「………………俺も好きなんでつきあってください!!」

綾峰は病室の外にまで聞こえるような声で言った、と言うよりも叫んだ。
ただ、それが綾峰の答えだった。
白井はそれに対して、

「はい」

と本当に幸せそうな笑みを浮かべるのだった。

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