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八月六日 伍【狂乱逢引編】

12時55分、綾峰は自転車で第七学区まで来ていた。
途中で改造タクシーに追いかけられてた行きと違い、帰りは何事もなくすぐに帰ってこれたのだ。
今回はもちろん運ではない、流石に綾峰自身も学習した。

(行きは表通りを爆走したから見つけられたんだから、こうやって、路地裏を走ってりゃ風紀委員や警備員達に見つかることもないだろ)

そう考えて、現在路地裏を『肉体強化』で爆走中だったりする。
よくよく考えてみればそういう問題ではないのだが、意外とそういう事に気付かない綾峰だった。
今は雲雀と共にいる可能性のある『未元物質』を追っているところだった。
レベル5の1人である『未元物質』のAIM拡散力場は他のレベル5(御坂)と同様に非常に濃く、本人の意識がない状態でさえもその痕跡を残す。
AIM拡散力場を目で感知できる綾峰が『未元物質』を追うのは非常に簡単だった。

(え?)

その途中、予想外の光景を目にした。
路地裏の一画にスキルアウトらしき少年達に担がれていた雲雀がいたのだ。
てっきり『未元物質』と共にいるのではと思っていたがために予想外の事態に綾峰は致命的なミスをしてしまう。
綾峰は自転車のブレーキを力強く握ったのだ。
時速60㎞は軽く出していた。そこに急なブレーキをかければどうなるか。
答えは簡単、ブレーキによってゴムが焼けるような匂いと共に地面に焦げ目ができ、綾峰は体勢を崩してしまう。

(あ、やべ)

多少ブレーキが効いて減速はしていたが、ほぼ時速60㎞前後の速度で体勢を崩したままの綾峰は狭い路地裏で壁に激突した。
狭い路地裏にずどん、という轟音が響いた。










とある科学の事件体質(トラブルメーカー)第30話









ずどん、と地面の抉れる音がした。
場所は第七学区の路地裏の奥、表通りからかなり離れた場所にあるその場所は昼の1時と言えども薄暗く多少の喧騒であれば表通りに響く事はなかった。
故に、道を塞ぐように数十メートルに渡り、地面が抉れようとも誰も気付く事はなかった。
ただ1つの例外として、

「ひ、ひいいい!!」

抉れた地面のすぐ横にいた蛇縞は腰を抜かしてへたりこんだ。
抉れた地面には微かに輝く白い羽があろうことか突き刺さっていた。
擦ったのか、蛇縞の研究服の裾がわずかに切れていた。
腰を抜かしたまま、蛇縞は恐怖に震えながら抉れた地面とは反対側に振り向いた。
そこにはその原因である紅い服を着た男が腰を抜かした蛇縞に向かって歩いてきていた。
腰を抜かした蛇縞のすぐ後ろに来た学園第2位の男は問い掛ける。

「おいおい、俺に指令が来るぐらいだからどんなヤツかと思ったらこの程度で腰を抜かすようなヤツとはなぁ。テメェ何したんだ?まぁ、どうでも良いけどよぉ」

言葉通りに彼にとっては心底どうでもいいのことなのだろう。
見下した笑みを浮かべながら帝督は訊ねる。

「それで、テメェが持ってるとか言うメモリーチップを預かりに来たわけだが。どこにある?」

蛇縞自身もそれを探す為に路地裏を歩き回ってここまで来たのだ。
そんなこと分かるはずがない。
蛇縞は冷や汗を浮かべ、がちがちと歯を鳴らす。
だが、そんなことは蛇縞の目の前の学園第2位には関係ない。

「だんまりか? 俺としてはさくっところっと終わらせたいわけなんだが。まぁ、テメェが黙ってるなら別の手を取るわけだけど」

そう言ってにぃと『未元物質』は悪質な笑みを浮かべる。
学園第2位、つまりはこの学園において彼に勝てる者はただ1人しか存在しないということであると、蛇縞は心のどこかで冷静に考えてしまう。
それ故に、

「ひ、ひいいいいい!!」

恐怖に打ち負けた蛇縞は『未元物質』に背を向けて逃げ出した。
それがまずかった。

「おいおい、逃がすわけないだろ?」

それが蛇縞の意識のある内に聞いた最後の言葉だった。







突然の爆音に驚いたスキルアウトの3人の目の前には、もうもうと煙が上がっていた。
回りにはゴムの焼けた匂いが充満し、積み上げられていた段ボールがひしゃげてそこら中に転がっていた。
3人のスキルアウト達は電柱にぶつかり使い物にならなくなった車を捨てて基地に向かう途中だったというのに、突如現れた何かによって目の前は煙に包まれ進むに進めなくなっていた。

「なぁ、なんだと思う?」

「んー、あれじゃね?良く言う落下系ヒロイン」

「おい、お前馬鹿言うなよ」

「おー、そうだそうだ」

「落下”系”じゃねえ!落下”型”だ!!」

「つっこむとこ、そこかっ!!? 第一、さっきの横から吹っ飛んで来なかったか?」

「あれか!吹っ飛ぶ系ヒロインだ!」

「だから吹っ飛ぶ”型”だっつってんだろが!」

「しつけぇんだよ!お前ら!!」

「で、結局あれは何なんだ?」

「俺の好みは百八式まであるぞ!!」

「心の底からどうでも良い情報をありがとう、でも今それ関係ないから!!」

その時、ゆらりと煙の奥が揺れた。
3人は緊張した面持ちで煙の向こうに立つ相手を見る。
そこには、黒い仮面と黒い合羽に身を包んだ存在がいた。

「………『多重能力者(デュアルスキル)』!?」








(危なかった………本気で死ぬかと思った(汗))

綾峰は煙の中で立ち上がりながら太鼓を打ち鳴らすように心臓の音を響かせている自分の胸に手を当てていた。
その体は黒い仮面と合羽に包まれている。
さきほど激突する直前に衝撃吸収材の代わりとしてとっさに出しておいたのだ。
おかげでどうにか立つ事はできた。
それでもところどころ打ち身で体中が痛かったりするのだが。

(何にせよ、やっと雲雀を見つけた………それにしても何でスキルアウトが雲雀を?)

疑問が浮かびながらもスキルアウトからまずは平和的に雲雀を返してもらおうと声を掛ける。

「ソノ子ヲコッチニ返シテ貰オウカ」

と、『音波使い』の能力を使って言うはずだったのだが、

「ソノ子ヲ…………………貰オウカ」

と、ノイズの混じった言葉になっていた。

(これはいったい!?まさか、さっきの衝撃で能力に変調を来してんのか!?)

「に、逃げろおおおお!!」

そう言って3人のスキルアウトの内、雲雀を抱えていない2人が逃げ出した。

「なっ、おい」

1人残された少年は慌ててどこかに電話をかける。
綾峰はどうしたものかと唖然とそれを見ていた。

「………………た、助けてくれ!リーダー!アイツが出たんだ! よ、黄泉川の妹は助けたんだけど……出てきやがったんだ!アイツだよ。何でこんなところに現れたのかわからねぇけど!デュアっあ!!」

よほど慌てているのか携帯を少年は落としてしまう。
綾峰はとりあえず誤解を解く為に、少年に近づいて行こうとする。

「ひ、く、来るなぁああ!!」

少年は恐怖に叫びながら雲雀を抱えたまま後ずさる。
その時ちょうどスキルアウトの少年の後ろから車が現れて、中から2人の男が出てきた。

「……その外見、噂に聞く『多重能力者』だな。お前が何故この場にいるのか定かではないが、その子は我々が預かっている。大人しく退いて貰おうか」

陰鬱な声と共に現れた駒場はスキルアウトと雲雀を庇うように2人の前に立つ。

「リーダー、退いてくれ。そいつは俺がやる。リーダーと浜面は2人で黄泉川の妹を連れてってくれ」

さらにその前に半蔵が立ち、『多重能力者』である綾峰を睨みつけてきた。

「……何を言っている。相手はレベル5すら相手にできると言われる化け物だぞ」

「時間稼ぎぐらいなら俺でもできる」

「……ならば2人でかかればより時間稼ぎはできるだろう」

「リーダー……」

(あるぇ~、これどんな状況?)

一番この状況についていけてないのは綾峰だったりする。

「……浜面、その子を乗せて車を出せ」

駒場が声をかけるが、しかし浜面はすぐに発車しない、と言うよりもできなかった。

「ちっ、やられた。リーダー。あいつ、いつの間にかタイヤの空気を抜きやがった」

浜面達が乗ってきた車の後輪に太い釘が刺さりぺたんと潰れていた。
どうやら車の整備不良に加え、綾峰が先程壁にぶつかった際に段ボールの中身の釘が散らばっていたようだ。

「……なるほど、我々を逃がすつもりはないということか」

『多重能力者』がやったものだと勘違いした駒場がきっと綾峰を睨む。

「とにかく、浜面。行くんだ。ここは俺達がどうにかする」

半蔵が浜面に促す。

「………っく。わかった。おい!逃げるぞ!」

「あ、ああ!!」

雲雀を抱えていた少年は浜面に連れられて路地裏を逃げ出していく。

「………!」

綾峰もそれを追おうと、駒場と半蔵の後ろに『空間移動』しようとした。
が、できなかった。
どうやら『空間移動』などのレベル4以上のいくつかの能力が先の衝撃の際の精神の乱れでうまく使えなくなっているようだ。
刹那、駒場の蹴りが綾峰を襲う。
それを後ろに逃れることで避けると、そこに半蔵から何かが投げられた。
無理矢理の体勢のままそれを避けるが、相手の隙を逃す駒場ではない。
体勢が崩れた綾峰の腹に駒場の重い蹴りが入る。

「ぐっ!」

綾峰はそのまま後ろに吹き飛ばされた。

「……ここから逃がしはしないぞ、『多重能力者』」

「黄泉川のために、ここは通しはしない」

綾峰の前に駒場利徳と服部半蔵の2人が立ち塞がった。

(だからこの状況は何なんだよおおおお!!)

本来の声を出すわけにもいかない綾峰が心の中で叫んでいた。







13時20分。
路地裏でスキルアウトや『多重能力者』が戦闘を繰り広げているのに対し、表通りでは、いつも通りの日常が繰り広げられていた。
夏休みを満喫するほとんどの学生達が毎日日曜日やっほーみたいな状態なのだが、一部はうわー、夏休みまるまる補習って、不幸だー、いやいや上やんボクぁ小萌先生の補習受けれて幸せやで、お前わざとだろ、つーかあの先生泣くぞ?あっはっは、あの人はいつも上やんに泣かされてるみたいだけどにゃー、みたいな感じだったりする。
そんな猛暑の中、第七学区の一画では冷気が溢れていた。
回りにいた人々は突然の寒気に震えながら何事かといった表情になる。
そして気がつくのだ。
ツインテールをなびかせた少女が第七学区の中を凄まじい形相で歩いていくのを。

白井黒子(魔神)だった。

白井の形相はどちらかというと笑顔という分類だった。
だが、その笑顔が鬼すら背筋が凍るようなものであれば話は別だ。
そして事実、その笑みを見たとある幻想殺しはこう言う。

「何て言うか、父さんがいつの間にか別の女の人といい雰囲気になってる時の母さんの顔を思い出した」

シスコン軍曹は、

「舞夏の料理をちょっとした手違いで腐らせちまった時の顔を思い出したぜい」

青髪ピアスは、

「あれもまた萌えってやつなのがなぜわからんのや。ええか、お前らそもそも怒りの顔が笑みに変わるっていうのは(以下略」

三者三様の例えでその笑顔を表現していたが、3人とも最後にはこう締めくくった。

「「「まぁ、あの子の相手にとっちゃあれは死亡フラグだろ(だぜい)(やで)」」」



怒髪天という表現すら生温い程の笑みを白井は第七学区を歩き回りながら爆走自転車を探していた。
白井は片手に携帯を持って暴走自転車の情報を聞く為に初春に電話していた。

「それで、その暴走自転車(生贄)ってのはどこにいるのかしら」

「その()の中が異様に怖いんですが……何でも一度、第五学区に入ってまた第七学区に戻ってきたところまでは情報があるんですが、どうやら路地裏に逃げ込んだらしくてですね。現在地は不明です」

「それじゃぁ、その生贄(暴走自転車)……いえ爆走自転車(生贄)は今もこの第七学区の路地裏で爆走していると」

「いえ、入れ替える意味ないですよね!?「初春?」は、はいいいい!!たぶん、そうなると思います。あるいは既に爆走してないかもしれませんが」

初春の声は既にいつもの飴を転がすような甘い声ではなく、恐怖によって震えていた。

「で、でももう表通りで法定規則を超える速度で走っていないなら、追う必要はない「それじゃぁ、私のこの怒りはどこにぶつければいいですの?」ひ、ひいいい!!」

既に初春の口からは悲鳴しか漏れてこない。
その時、路地裏を見ていた白井の目に何かが映った。

「……あれは………」

「? どうしました、白井さん?」

白井は初春の問いには応えず、そのまま路地裏に入っていった。
そして、綾峰の妹分である雲雀を担いでいる少年たちを発見した。

「初春、警備員から爆走自転車以外に事件の連絡は来ていませんの?」

「え? ああ、そう言えば女の子の誘拐が起こっているとかで高校生の先輩達に連絡が来てましたけど」

「その子の名前は雲雀って子ではありませんの?」

「えっ!?な、何でそれを知ってるんですか?中学生は危ないからって連絡来てないはず」

初春の言葉を最後まで白井は聞いていなかった。
そして逃げる少年達の前方に『空間移動』をすると風紀委員(ジャッジメント)の右腕に付けた腕章を示しながら、

「『風紀委員(ジャッジメント)』ですの!!誘拐犯の現行犯で拘束します!!」

浜面仕上と雲雀を抱えたスキルアウトの少年に言い放った。








白井が浜面達と相対したのと同時刻。

「メモリーチップなんてどこにもねえじゃねぇか」

帝督は舌打をして無駄に時間を使ってしまった八つ当たりとばかりに蛇縞に蹴りを入れる。

「っが………」

衝撃で蛇縞は微かにうめき声を上げるが、ぴくぴくと死んだ虫のように震えるだけで動きはしなかったが、一応生きてはいた。

「やれやれ、こういう場合はどうなんだ?メンドクセェなぁ」

ため息を吐く帝督のポケットから携帯の着信音が聞こえてきた。

「………おう、俺だ。どうした?」

「メモリーチップは見つからなかったみたいね」

携帯からは『心理定規』の声が聞こえてきた。

「っち、その通りだよ。わかってんならもっと速く連絡してこいっつの」

「ええ、メモリーチップがどこにあるかはわかったわ。改めて端末に送っといたからよろしく~」

「はぁ、今度はテメェで行きゃあ良いだろうが。俺はもうメンドクセェから帰りてぇんだが?」

「良いの?別に私は構わないけど、せっかく助けた命なんでしょ?」

「あん?何の事だ?」

「端末を見ればすぐにわかるわよ。ま、それでも私にやれって言うならまた電話ちょうだい」

そう言うと、『心理定規』は通話を切った。

「何なんだ、いったい?」

ぼやきながらも端末を見た帝督は、

「あのアマ」

腹立たし気に舌打をして、歩き出した。

所持者、碓氷 雲雀(うすい ひばり)。

端末にはそう書かれていた。

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