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七月二十四日 壱【幻想御手編】

体は 紙で出来ている
血潮は文字で 心はグラフ
幾たびの事務所を越えて不敗
ただ一度の残業もなく、
ただ一度の早退もなし

担い手はここに独り。

書類の山で判子を押す

ならば 我が生涯に インクは不要ず

この体は、 無限の書類で出来ていた











「終わっ…………た」

とさ、と綾峰は倒れた。
そこに敷き詰められたのは紙の山。
その頂上で書類の王は眠りという美酒に酔っていた。

「あ、綾峰さ~ん。あと一山なんですから。頑張ってくださいよ~!!」

だが、その横には絶望という名の書類の束が置かれている。

「うるせー、初春。俺はもう眠い。後は任せた」

始めてから16時間。
予定よりも時間が掛かっている。
途中初春には休ませたが、綾峰はずっと寝ずに仕事をしていたのだ。
既に綾峰には限界が来ていた。

「…ふぅ、この手は使いたくなかったんですが……

 白井さんが終わんないとオ・シ・オ・キですわよって微笑んでましたよ」

「初春さっさと次の資料持ってこい」

「はーい」

綾峰の苦難はまだまだ続く。










とある科学の事件体質(トラブルメーカー)第15話









午前6時頃
書類仕事が終わった頃には既に夜が明けていた。

「あれ?何でだろう?朝日が目に沁みるんだけど」

いつの間にか初春も帰っていて、事務所には綾峰独りだった。


閑話休題


「つーか、なんであんだけ人数がいて1人も書類仕事やんねーんだよって話だよなー」

帰路につきながら綾峰は愚痴っていた。

「第一、俺1人が頑張ってるようなもんじゃねーか。まぁ今回は初春が少し手伝ってくれたからいいが。つーかもっと全員で一遍にやっちまえばすぐ終わるだろ?………………はぁ、愚痴っても仕方ないか」

そこまで言って綾峰は回りをみた。
そこは往来の激しい駅の前で人に聞かれていないか不安だったからだ。
というか独り言をぶつぶつ言ってるところをみられたら、恥ずかしさで綾峰は二三日は引きこもるつもりだった。
しかし、幸いなことにそこには誰もいなかった。
どうやら独り言は誰にも聞かれずに済んだよう

「あれ………………おかしくないか?」

幾らまだ早朝とは言え駅前だ、この時間帯にだって電車はある。電車に乗って会社に行ったり帰ってきたりする人が1人か2人は少なくともいてもおかしくはない。

(なのに、人っ子1人いないのはあまりにも不自然じゃないか?)

「初めましてと言っておきます」

「………………(汗)」

嫌な予感がした。
冷酷な声、されど凛とした声は明らかな殺意を持っていた。
振り返る。
そこにはシャツに片足をほぼ切り取ったジーンズといういささか奇妙ではあるがまだ普通な服装に身を包んだ長髪の美女がいた。

「神…裂…?」

殺気に震える声が相手の名前を訊ねる。

「ええ、よくわかりましたね。神裂 火織(かんざき かおり)と申します」

神裂は綾峰が自分の方を向くと殺気を収めた。
おかげで綾峰は幾分話し易くなる。

「何で、人がいないんだ?」

「単にステイルに人払いの結界を張らせているだけですよ。この一帯にいる人に『何故かここには近づこうと思わない』ように集中を逸らしているだけです」

「……それって駅前のここでやるとメーワクな気がするのって俺だけ?」

「…すぐに終わる用事ですので」

「えーっと何でしょう?」

(待て、おかしいだろ?何でこいつらは上条じゃなくて俺の方に先に来ちゃうかな?つーか、もう疲れた!!帰りたいんですけどー!?)

綾峰の心の叫びを知ってか知らずか、神裂はきっと綾峰を睨むと言った。




「ステイルに『女性をオトす』なんて下品な言葉を教えたのは貴方ですか?」




「………………は?」

「いえ、ああ見えて彼はまだ子供ですし、私の方がいささか年上ですのでそう言った日本語はできるだけ教えないように気をつけていたというのに……」

「………………………………(何て言うか、この2人の関係って姉と弟なのか?)」

「彼が先日私のもとに帰ってきた時、真剣な表情で『あの上条ってやつの能力は『フラグ乱立体質(女殺し)』だ』と言ってきたのですよ!!」

(うわー、マジで信じたの!?というか言ったの!?この人に!?)

「………………あの、それで俺はどうすればいいんでしょうか?」

「………………………………」

「あの?神裂さん?」

「とにかく、次からはああいう言葉はステイルに教えないようにしてください!!でないと、私は貴方をこの七天七刀の錆びにしなければなりません」

「は、はい!気をつけます!」

「なら、よろしい。以上です」

そう言って神裂は去っていった。

「…………つーか、その程度のことならこの結界張る意味無いんじゃ…………」

「これはステイルへの罰です」

いつの間にいたのか戻ってきたのか、神裂さんは目の前に来て言いました。

「…………そうですかー(棒読み)」

「それでは今度こそ失礼します」

神裂火織は今度こそ去っていった。
断言しよう、あの人絶対将来は教育ママになる。
綾峰はそんなしょーもない事を考えつつ、部屋に帰り爆睡した。







午前10時頃
白井は顔をしかめつつ、風紀委員の事務所で初春の手当てを受けていた。

「っ!沁みますわ」

「我慢してください。それにしても日に日に生傷が増えていきますね」

「仕方ないですわ。急激にレベルの上がった能力を悪用する輩が絶えませんし、今この状況で植物人間の話が広まったら自暴自棄になった輩が何をしでかすか……」

「恢復した人は1人もいませんしね」

そう言って初春はテープを白井の腕に貼る。

「五感に働き掛ける『学習装置(テスタメント)』ならまだしも、聴覚のみでは能力開発は不可能。でも現実問題として『幻想御手(レベルアッパー)』は使用者の能力を引き上げている。いったい何がどうなっているのか…」

初春の声は暗い。
目的も解決策も見えない現状では仕方なかった。
その気持ちを白井も共感できたが、それを振り払うように凛とした声で言う。

「泣き言を言っても始まりませんわよ。とにかく私たちが為すべきことは3つ。
   ・『幻想御手』拡大の阻止
   ・昏睡した使用者の恢復
 そして、
   ・『幻想御手』開発者の検挙!

 この一連の騒動を引き起こした張本人、『幻想御手』を開発し、音声ファイルの形で広めた何者か。必ず見つけ出して目論見を吐かせてやりますわ」

「っと、包帯を捲き直してもらってもよろしいかしら。自分でやるといまいちで…」

「いいですよ。でも御坂さんには頼まないんですか?」

そう言いながら初春は包帯を捲き治し始める。

「お姉さまにこんな姿見せるわけにはいきませんわ。ただでさえ、ここ数日元気がないのに。黒子の事で心配をかけるわけには…」

「白井さんのことを心配する人なんて綾峰さんぐらいですよ」

「なッ!?何を言ってますの!?」

「えー、だって綾峰さん。この前も入院先の病院から電話してきた時も「白井はどうした?」って聞いてくるんですよ~。まったく端から見ててラブラブなんですからー」

「そ、そんなことありませんわ!私はお姉さま一筋ですの!」

そう言いながら顔を真っ赤にした白井は初春の喉を絞める。
その瞬間、部屋の扉が開いて、

「おっす。何か私に手伝える事」

御坂が入ってきた。しかし御坂が何か言い終える前に頭上から初春がふってくる。

「「え?」」

ゴッという痛そうな音が響き渡り御坂と初春は地面に倒れた。
その隙に白井は服を着て包帯を隠した。

「ご、ごきげんよう。お姉さま。能力でセキュリティを解除するのよしてくださいな」

「「…………」」

白井の声に応える者はいなかった。


閑話休題


御坂は自分も首をつっこんでしまったので手伝いたいと言ってきた。
初春と白井は現状でわかっていることを説明する。

「ふーん、『学習装置』かぁ…」

「五感全てに働く機材がない事には能力開発はできないとのことなのですが」

「植物状態になった被害者の部屋を捜索しても『幻想御手』以外に何も見つからないんです」

2人の話を聞いてふと、御坂は何かひらめいたのか少し考えをまとめると話し始めた。

「逆に、仮の話だけど『幻想御手』という曲自体に五感に働き掛ける作用がある可能性はないかしら?」

「?どういう意味でしょうか?」

「前にかき氷食べた時の会話覚えてない?」

十九日の話だった。
初春が風邪でダウンしていた日、白井と御坂はかき氷を下校中に食べたのだ。
その際、佐天から『幻想御手』の話を聞いて、ファミレスにて情報収集しようとして上条と綾峰に邪魔されることになったのだが、それは別の話。
御坂が言っているのは、その際にほんの世間話程度にでた会話のことだった。

「たしか、赤い色ならイチゴ、黄色ならレモン、緑だとメロンでしたっけ?」

「そう、それ。共感覚性」

「?共感覚性ってなんですか?」

「赤い色を見ると、温かく感じることない?そういう視覚で感じてるはずなのに他の感覚のものを感じることを言うの。例えば、さっきのかき氷の話は視覚と味覚。他にも風鈴の音色を聴いて涼しく感じたりするでしょ?それは聴覚と触覚」

「つまり、1つの感覚を刺激することで2つ以上の感覚を得る事ですわ」

「……な、なるほど」

「本当に…わかっていますの?」



同時刻

綾峰の部屋

Prrrrrrrrrrrr
Prrrrrrrrrrrr
Prrrrrrrrかちゃ「ふぁい、あやみねふぇすふぇど?」

『おや、寝起きだったかな?』

電話の向こうからはカエル顔の医者の声が聞こえてくる。

「いえ、むしろこれから超☆爆睡モードに入る予定でした。軍曹」

『寝ぼけてるよね』

カエル顔の医者は呆れたように言う。

「どうしたんですか?こんな時間に、良いこの皆は寝てる時間ですよ?」

『いや、それは君だけだから。ちょっと頼みたいこと、というか知らせたいことがあってね』

「内容によっては切ります。というかまたあのナースコレクションがどうのって話だったら確実に切ります」

『『幻想御手』のことだよ』

一気に綾峰は覚醒した。

「っ!?な、何か進展があったんですか!?」

『それを説明するかちょっとこっちに来てくれるかな』

「すぐ行きます」

綾峰はすぐに制服に着替えると部屋を出ていった。





午前11時頃

「黒子っ」

病院のロビーに御坂の声が響いた。
白井が真剣な表情で振り返る。

「佐天さんが倒れたって…やっぱり『幻想御手』がらみ?」

肩で息をしながら御坂は訊ねると、

「ええ、どうやらその線のようですの」

白井は唇を噛みつつ頷いた。
先ほどの推論を元に木山に調査依頼をして、その結果を受け取りに行く途中の初春から連絡が来たのだ。
いつもの初春からは甘ったるい声からは想像できないような真剣な声で。

「初春さんは?」

「木山先生のところへ」

「そう、でも少し休ませた方が良いんじゃない?」

「私もそう言ったのですが、自分が風邪で対応が遅れたせいだと言い張って聞かないんですの」

2人が話をしていると、そこに後ろから声がかかる。

「あー、ちょっといいかい?」

2人が振り返るとカエル顔の医者が立っていた。




カエル顔の医者が言うには、被害者達は皆一定の脳波のパターンがあるらしい。

「そこで、最強の『電撃使い(エレクトロマスター)』の君に相談したいんだけど、同一の脳波を持つ人達の脳波の波形パターンを電気信号に変えたらその人達の脳と脳を繋ぐネットワークのようなものができるかな?」

カエル顔の医者の質問に御坂は、少し考えると答えを言った。

「脳波を一定に保てるなら可能かもしれないけど、そんなことを誰が?」

「…なら、間違いないか。良いかい。僕は職業柄、セキュリティについても色々と新しい開発を手がけていてね。その中の1つに人間の脳波をキーにするものがあるんだ」

「その中でね、被害者達が見せている一定の脳波のパターンと同じパターンを持つ人がいるんだよ」

そう言ってカエル顔の医者が御坂にパソコンを見せる。
そこに映っていた人物の写真を見て御坂は驚愕した。

「これは…」

木山 春生(きやま はるみ)、その人だった。
そこへ黒子が携帯を片手に駆けてくる。

「お姉さま!木山春生のところへいった初春と連絡が取れませんの」

事態は急激に進み始めたことを御坂は悟った。





2人が慌ただしく駆けて行った後、『冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)』は暗がりに声をかけた。

「それじゃ、そろそろ君の出番だよ。『多重能力者(デュアルスキル)』」

「はい」

返事と共に出てきたのは綾峰だった。

「雲雀ちゃんだっけ?救うんだろ?お姉さんに会わせてあげるんだろ?」

「はい」

「なら、行っておいで。守るもののために」

「………俺は、魔術師じゃないですから、こんな名前を名乗るのは変かもしれませんが。あえて名乗りたいと思うんです omnia1000、と」

「…………どういう意味だい?」

「我が世界の全てを守るために」

「なら、全力で行っておいで。そして帰っておいで。どんな怪我でも安心しな。僕が必ず治してあげるよ」




「はい、行ってきます」

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